折々のニュース

2024年3月27日 ある日のカントリーライフとスキー納めNew!

国内・地方自然

八ヶ岳では、25,26日と雨が結構降り、雪に覆われていた金山デッキ周辺(標高は1020m)も地面が剥き出てきて、春の景色になってきた。1800mくらいから上の山はそれでも雪だったようで、スキー場は少なくと月末まで、うまくすれば4月上旬までは営業できそうな気配だ。好天になったのを幸いに、23年度冬シーズンの最後のスキーに行くこととした。
急に思い立っても仕事はある。宮仕えからは解放された非常勤の身でも行かないとならない所はあるのである。八ヶ岳のある1日を振り返ってみよう。
6時起床で、ラジオの英語教育番組を聞き、地元の卵、アルプス卵でスクランブルエッグの朝食。昨晩までに来ていたメールに返信して、シャワー。そしてちゃんと背広に着替えて、茅野市役所での、PPA事業者選定のためのヒアリングと評点付けに9時半から参加。昼食は、自宅に戻って、手料理で叉焼麺を作ってランチ。そして12時半までにスキーウエアに着替えてスキー場へ出発。スキー場には25分で着いて、リフト5回分を、持っている電子カードにチャージして1時にスキー開始。5本滑って、自宅に2時に引き返した。その後、スキーのための目出帽やタートルネックインナーなどを含めて洗濯機を回しつつ、3時半からは、遠隔で会議。5時には遠隔会議も終わって、この「折々のニュース」をワーズで作成した。これから、かつて買っておいた牛肉で、ストロガノフを作って、夕食。若干の読書をして就寝、これが、ある1日のカントリーライフである。

小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

自分でも言うのも変だが、移動時間が少ないのに多様な活動ができるのがカントリーライフの醍醐味だ。正直、車依存社会なのである。そうは思うものの、職も住も、食も余暇も、手近にあることはありがたい。インターネットは田舎と都会の距離をなくしたが、さらに、車を、自家製の電気で駆動できるものに変え、できたら、自動運転されたら、田舎こそ都会に勝る良い所だと思う今日このごろである。
写真1は、我が金山デッキから北八ヶ岳を見たところ。蓼科山(左の円錐形の山)の左肩にある白い所の向こう側斜面が今日行ったTwoInOneスキー場。正面の、横に広い山(北横岳)の右下にある白い所が写真3(自分のスキー姿)を19日に撮った日本ピラタススキー場。写真2は、滑り納めになったTwoInOneスキー場の本日27日の景色。まだ雪は十分にあった。なお、今シーズンのスキーは6回で、昨年より8回減った。理由は、圧迫骨折した腰椎を固定するコルセットは不要との診断を得たのが2月下旬で、実稼働が1か月しかなかったからだ。ご心配をお掛けし恐縮でしたが、お陰様で、腰を大きく動かす種類の筋トレ以外は、普通に運動できるようになった。

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2024年3月11日 中部大学の大学間共同利用研究拠点で日本の「デジタルアース」10年目の研究発表会があった。

国際・海外ルール自然
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デジタルアースは、気候変動枠組み条約のCOP3が京都議定書を採択した翌98年年頭に、アメリカのゴア副大統領(当時)が提唱したアイディアで、地理的、空間的な意味のある膨大なデータを、ヴァーチャルな地球に収蔵し、いろいろな解析、利用に供せるようにする取り組みである。2006年には、国際デジタル地球学会が設立され、このようなものの構築を目指した動きは、世界共通のものとなっている。中部大学の国際GISセンターは、2011年に設けられ、14年度に文部科学省から、デジタルアースの共同利用共同研究拠点に指定された。23年度は、ちょうど10年間の節目を迎えたところである。自分は、共同研究課題の採択や成果の評価などを行うことが任務の、この拠点の共同利用委員を10年間仰せつかっている。今年も恒例の研究発表会があったので、2日間にわたり参加した。発表は29件に及んだ。
発表を聞いていて思うことは多かった。
一つは、データを取る技法の進歩である。半世紀前、自分が、学部で、計量地理学のゼミに所属していた頃、自分達が地理的なデータを数量的に解析する最初の世代であったが、その頃は、例えば航空写真をメッシュに切って、自分の眼で判読し、カウントしないとならなかった。それが今は、GPS付き自動飛行可能なドローンが重量100gを切るほど小型化され価格も2万円以下で手に入るようになった。さらに、ドローンが撮影してきた画像を平面地図に加工するソフトも無料で手に入る。わざわざ自分でドローンを飛ばさなくとも、グーグルアースの画像から、3Dの鳥観図を生成させることもできる。データは豊穣になったのである。
もう一つは、目的函数の複雑さ、というか、望ましい社会の姿が極めて多次元になったことである。人類が目指すべき目標はSDGsのように、暮らしや社会、自然界のあらゆる側面に及び、望ましいい状況は、ある側面と他のある側面の、トレードオンのように実現されることも多かろうが、しかし場合によっては、トレードオフに直面するかもしれない。そこを踏まえると、ある特定断面に着目した、つまり、変数を限り、バウンダリーや境界条件を明確にして、結果的に多くを捨象し、単一の目標を少数の独立変数を制御して達成しようとする、費用対効果の良い戦略は、現実社会の複数目標を前提にすれば妥当性を失ってしまったにちがいない。そこで、個別研究課題で歓迎される、視角を制限したシャープな分析的な方法論ではなく、いつも生態系や経済システムの全体的な姿に照らして、変数の操作の含意するところを広く考えるような枠組みが必要になっていると言えよう。発表を聞かせていただき、ゴアさんの慧眼はここにあったのではないかと思うに至った。
10年を経て、立派な部分最適と言えるような研究成果が出てくるにしたがい、全体最適にナビゲートするためのシステムもなくちゃいけない、という気持ちを強くした。

2024年2月19日 コロナ明けの南豪州とシンガポールに環境対策の進展を見た。

国際・海外エネルギー

コロナの影響で、国内ですら環境取り組みの現場の訪問は長い間難しかったが、ようやく最近、国内外で現場での交流ができるようになった。しかし、ロシアとウクライナとの戦争や航空便数削減のあおりを受けた国際運賃の高騰、そして円安もあって、私個人にとっては海外の見学はハードルがなお高かった。しかし、ようやくこのほど、豪州ヴィクトリア州、南オーストラリア州、そしてシンガポールの環境取り組みの進展を見学できたので印象を報告しよう。
この現地見学は、東大先端研の社会連携研究部門「再生可能燃料のグローバルネットワーク」(REGlobalと言われる。)の活動の一環で、このプロジェクトに参加する関西電力、ENEOS、日本触媒などの、海外起源のグリーン水素の活用などを目指す企業や東大の研究者などが現地を訪れ、現地関係者と意見交換をしたものである。私にとっては、特に豪州は、コロナ禍の少し前の2019年秋に同じ目的で訪問していたので、違いがとても分かりやすかった。
オーストラリアの各州はそれぞれに頑張っているが、南オーストラリア州を例にとれば、4年半前には計画に過ぎなかったグリーン水素製造用水電解装置が稼働していて、周辺の住宅地区に供給される都市ガスに、計画どおり体積比10%の水素が供給されるようになっていた。それだけでなく、同州は、既に、発電用エネルギーの70%の再生エネルギー化を達成していて、30年での都市ガスの水素混入20%、35年でのCO2の60%削減などにコミットしていた。
シンガポールも、東洋一のパーキャピタ所得を誇るだけあって、環境対策には強力な進展が見られた。同国の発電燃料は、パイプラインで運ばれる天然ガスやタンカー輸入されるLNGが大宗を占めるが、発電ボイラーの水素焚きへの舵を大きく切った。さらにどこの家庭からも10分以内に地下鉄駅を設けるといった、強力な都市計画事業を構え、自動車交通の削減やEV化にも強い取り組みを見せていた。
ところで、地球温暖化に伴う気候悪化は容赦なく進んでいる。豪雨の増加と蒸発量の増加で、水資源はますます獲得しがたいものになっている。この両国は、一人頭の水資源にもとより恵まれず、その上で水資源確保が難しくなりつつある。そのため、CO2排出量の削減と並行して、使用可能な水資源の確保にも積極的に取り組んでいることが両国共通に見て取れた。

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南オーストラリアで興味深かったのは、今までは海にすばやく流して洪水を起こさせない管理しかできなかった洪水流量の有効活用が実際に始まっていて効果を見せていることであった。ダムから吐かれる洪水分の水を、人工的に確保した湿地へと取水し、乾季の、周辺での散水用水として活用する事業である。写真は、とても人工とは思えない、乾季(夏)の湿地公園である。そのマテバラなどは、稿を改めて報告しよう。また、シンガポールで興味深かったのは、シンガポール川の河口堰の設置や各地の人工湛水地(貯水池)の造営で、洪水を根こそぎ獲得する体制を整えた上に、下水の処理水の3次処理、そして、その処理後水(NEWaterと呼ばれる。)の湛水地への還元を行う仕組みがもうすぐ全土(といっても東京23区より少し広い程度)をカバーするようにまで育ってきたことである。
地球温暖化対策は、今や総力戦だが、他方で、レジリアントな人類社会を作る新たなイノベーションにもつながるな、と感じた、そうした今度の国外見学であった。

2024年2月3日 東大・まちづくり大学院第4クオーター科目「脱炭素論」が終了した。

国内・地方エネルギーまちづくり

去る1月31日、本郷の東大の第6限で、8コマを使って開講していた「脱炭素論」が終了した。主任の教員が村山顕人先生と私で、その他に元東京都の環境局長の大野輝之さんや国土交通省の現役職員西村愛さんなども出講してくださった。19人が履修してくれた。私は、5コマに登壇したが、その最終コマは、この大学院恒例の全員討論で締めた(写真は、他の科目の時ではあるが、そうした討論の1シーン)。

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討論のテーマは、①脱炭素まちづくりは他のまちづくりと異なって何が難しいか、②脱炭素のまちづくりの技法とは、③それらを社会実装させる制度などの仕掛けで、3ラウンドを行った。さすがに社会人大学院なので、自治体現役職員から自治体のサービス供給能力がもはや手一杯なことが述べられたり、脱炭素の趣旨が地域の具体的な課題の解決と乖離した形で理解されやすいこと、将来の利益と目前の支出とのバランスが理解しにくいことなどの指摘があったりした。また、実装の仕掛けとしては、人頭炭素削減クレジットで支払う地方税の創出、環境ではない具体的な地域課題の解決策の中に脱炭素の取り組みを織り込むこと、などなどユニークな提案が多くあった。
私としては、現在編集が進行中の、「カーボンニュートラルなまちづくり」(仮題。学芸出版から初秋に刊行予定)という、東大まちづくり大学院シリーズの新刊本がきっと役に立つに違いないと確信を深めた。今ある知識や経験を総覧すれば、円滑に、いまはまだない次の一歩が踏み出せるに違いないからである。

2023年12月18日 圧迫骨折が発見された。一病息災で終わって欲しい。

国内・地方

9月の半ば過ぎから、腰骨あたりの筋が、筋トレで体をひねったりすると熱いように痛くなるので、運動が足りないかと、背筋や側弯にむしろ熱心に取り組んだ。しかし、筋力強化やストレッチを続けても治らないどころか、むしろ、そうした際にかえって痛みを感じるケースが増えてきた。さすがに変だな、ということで、ようやく11月半ば、スポーツ負傷に強いと評判の整形外科に行った。そこでレントゲンを撮ってみたら、第一腰椎を側面から見た腹側が5分の1ほどつぶれていることが発見された、そしてMRIを撮ったところ、まだ新しく、白く写る炎症反応が確認された。したがって、完治していない圧迫骨折と診断され、3か月のコルセットによる患部固定が命じられた。
写真は、オーダーメードのコルセットである。実は、背骨は全然痛くない。足を体操時に使うような形に敢えてしなければ筋肉の痛みもないのである。なのにコルセットなので窮屈で、大事にされ過ぎてかえって筋力が落ちそうである。しかし、そもそもの骨折の機序も原因も分からない。骨粗鬆症の検査をしたがむしろ骨密度は同年齢では高い部類だった。とはいえ、筋トレくらいでは普通は骨折しないため、骨の強化はしておこうということで、骨の代謝に当たって破壊をする細胞の働きを抑える薬が処方された。それに加え、自分なりに、カルシウムを取るように心がけることとした。もう一つの写真は、そのカルシウム補強用のおやつやおつまみ類。2地域居住の一方の長野にはTSURUYAという、東京ベースの企業よりも大きな売り場を持つスーパーマーケット会社があって、様々な商品開発をしているが、この写真の2つとも、とても優れものの美味である。
おつまみでお酒もすすむが、一病息災になればと願っている。

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2023年12月8日 COP28は、世界を、1.5℃上昇に留める経路へと軌道修正できるのか。

国際・海外エネルギールール

気候変動枠組み条約第28回締約国会議が、11月30日から12月12日の日程でドバイで開かれた。私が担当した京都会議(COP3、1997年)から満四半世紀も経ったのである。このドバイでの会議は、パリ協定発効後5年間の世界の取り組みの進捗状況をチェックし、それを踏まえた方向付けをするとても大切な節目となる国際会議だ。
その折に、私のように、もはや国際交渉の現場にはいないOBが呼ばれて、日経ラジオ、町田徹の経済ニュース深堀りでいろいろと質問を受けた。ラジオ放映の音声は、こちらのリンク で遡って聴けるし、今や動画の配信もあって、それは こちらのリンク で見られる。

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聞いていただければお分かりいただけようが、ホストの企図は、現役ではなかなか異を唱えにくい、政府の、いわば「大本営」的見方に対し、OBを使って、違った角度からの声、セカンドオピニオンも届けよう、ということであったのだろう(スタジオ風景は写真のとおり)。
それはともかく、ホストの町田徹さんの関心は、COP28 に情報提供をすべく取りまとめられたUNEPの報告書(11月20日公表)が、パリ協定下の各国の取り組みが甘く、このままでは2.5℃から2.9℃の気温上昇が避けられないと警鐘を鳴らしていることを踏まえ、そろそろ拘束的な目標を各国に課することも必要ではないか、ということにあった。また、日本の政策も、石炭火力の温存や、再生可能エネルギー3倍目標への冷たい態度などで、心配だ、ということであった。
私の方は、パリ協定の仕組みを一層実効あるものにしていくことは大いに考えられるが、まだ数年はかかるので、まずはその糸口を作ったらどうか、ということを申し上げ、また、日本政府の煮え切らない態度も、国際的にビジネスをする日本企業が不満の声を上げだしたので、それに背中を押されて加速するに違いない、と楽観的な見通しを語らせていただいた。しかし、本当に、この12月5日に、日本気候変動イニシアチブが、100社以上の賛同企業を集めて発表した宣言(https://japanclimate.org/news-topics/cp-proposal/) は、本格的なカーボンプライシングを求めるもので、画期的と言える。是非お目を通していただきたいものだ。

2023年11月24日 先端研で、水素直火グリルのお肉を食べた。口福でした。

国内・地方エネルギー
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去る11月24日夕刻、「五感をよびさますサステナビリティ」と題して、東大先端研でパネルディスカッション(先端研では、もっと活き活きとした討議を狙って、クロストークと呼称)が開催された。進行役は、お馴染みの、先端研所長の杉山先生。登壇者は4人。お二人の、レストランを経営する料理人(いずれのレストランも先端研構内にあり。一人は自然派の和食(コマニ食堂)の玉田泉さん、もう一人はやはり自然派の洋食、アーペ・クッチーナ・ナチュラ―レの島田伸幸さん)。そしてもう2人、水素を広める役割を全く異なった角度から担っている方々も出席した。すなわち、グリーン水素を身近なものにするべく事業者、自治体の支援をしている福田峰之さん(㈱H2&DX社会研究所)と、水電解によるグリーン水素製造の一層の合理化を先端研で研究している河野龍興先生とである。
トークをクロスさせるテーマは、グリーンな水素の持つ価値を日常生活の中で体験的に感じられるようにしよう、ということであり、自然食品や無農薬栽培品が味が違うように、水素燃焼による調理がいかに食味を高めるか、ということが論じられた。前述の参加者のお一人、福田さんは、実際に水素燃焼の直火でお肉などを調理するグリルを開発していて、その斡旋や使用方法の教授などを行っている。なるほどというディスカッションが続いた。
しかし、話だけでは、体感ではなく、かえってフラストレーションが高まる。そこで、討議が終わった後から、有料制で、水素直火グリルによって調理した鶏肉、牛肉の試食を兼ねた懇親会が開かれた。報告者も、もちろん参加した。
寒くない程度の夜風に吹かれ、おいしい匂いをふんだんにふりまく、グリル回りの風景は、写真のとおり。調理人は水素調理にノウハウを積んだ小林俊輔さん。その後ろに、赤色で鎮座しているのが水素ガスボンベ。マイクを使って解説しているのは、福田さん。

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結果はどうだったろうか。それが、実においしかったのである。
技術的な理由は次のとおり。まずは、水素は高温で燃えるので熱は強い。例えば、鶏肉のグリルであれば、炭火やガス火の3分の2から4分の3の時間で完成するという。また、水素の燃焼に伴い水蒸気が発生する。肉の外側は高温ですぐに固まっても、水蒸気のお陰で固まりすぎず、内部は、いわば蒸し焼きで、パサパサにはならない。さらにありがたいことには、ガスに付臭がなくて雑味が移らず、肉の味そのものしか感じられない。オーブンに高温スチームを吹き込んだような調理法と言ったらいいだろうか。
高温ゆえに焼き方にはコツがある由であるし、ガスの流量にも企業秘密があるそうだ。ちなみに、水素の炎は無色だが、肉汁などが焼けるので、その炎色反応で炎は見える。その観察によれば、私見だが、流量はそうとうに絞っているように思われた。
とてもおいしい、新しいタイプの味、という以外の感想も持った。それは、この調理法は、鹿のような、普通の調理法では旨味が逃げやすい淡白なお肉にこそ、威力を発揮すると聞いたからだ。鹿なら、八ヶ岳には、捕えなければならないほどたくさんいる。江戸時代から、諏訪大社の免許でもって鹿食が行われていて、現に、ジビエ協会会長の営むオーベルジュを先頭にジビエレストランもいくつもある。さらに、水素利用に熱心な工場もある。地産地消の、自然の恵み堪能ワールドが八ヶ岳にはできそうじゃないだろうか。

2023年10月6日 東京都が再生可能エネルギー利用の社会実装加速化のための検討を開始

国内・地方エネルギー

東京都は、小池知事の肝いりで、再生可能エネルギー利用の社会実装を加速化するための検討を始めた。具体的には、再生可能エネルギー実装専門家ボードという検討の場を作って、そこで、再生可能エネルギーのオプションごとにどのような取り組みを今からすべきか、といった点の洗い出しをするのである。回ごとに焦点を当てる再エネは異なっていて、それを専門とする5、6人のリソースパーソンが呼ばれて意見を述べ、これを踏まえ、6人の、各回ともに参加するコアメンバーがディスカッションする、という運びで議論を進めている。自分も参加しているが、答申といった形で意見を集約することまでは求められていないため、かなり踏み込んだ提案や意見を、コアメンバーの皆さんは述べていらっしゃる。そうした提案や意見の束が、知事に出されて、咀嚼され、都の政策の中で徐々に具体化されていくはずだと期待できるので、自分としても、再エネ利用の義務付けなど、少し踏み込んだ意見を述べようと手ぐすねを引いている。

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コアメンバーには、海外から遠隔参加するエイモリ―・ロビンスさんもいる。写真は、イン・パーソンで出席された第2回会合でのものである(ちなみに、自分は、この写真の手前側の右側枠外に座っていた。)。若い頃から著作をたくさん読ませていただいた、尊敬すべき論客・先達だが、実際にお会いし、お話をしてみるとかねて親しんだ写真のとおりの、にこやかな円い性格の方であった。このような包容力が、様々に立場を異にする人々に信頼を寄せてもらえる原動力なのだろう。しかし、おっしゃっている内容はなかなかに手厳しい。ロビンス氏は、歯に衣着せず、日本の2030年のエネルギー供給のミックスが、いかにも野心がないものだ、ということを述べていた。
自分は現役行政官時代、東京都のカウンターパートの方々には、「東京都は国の中央政府に対して間違いを指摘したり、オールタナティブを示したりするような唯一の対抗官庁だ。そのつもりで頑張ってくださるとうれしい」とよく述べていた。今回は、自分が、そっちの立場に立って発言できることとなった。都なりの、例えば、もっとグリーンなエネルギーミックスを作り上げるなど、都の活躍を大いに応援したい。

2023年8月30日 霧ヶ峰の山火事後の植生変化を調べる

国内・地方自然
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霧ヶ峰は、10平方キロ以上に及ぶ大草原である。地域共有の採草地、放牧地として相当の昔から活用されてきた。このため、森林化しないように時々火入れがなされてきた。近年になって、採草地としての役割がなくなっても、大草原の景観を観光資源として維持するために、一部の地域では火入れをしていたが、それも5年前を最後に行われなくなっていた。しかし、2013年、そして今年の5月4日に野火が広がり、それぞれ220ha、166haを焼失した。写真1は、後者の野火のケースで、麓から見た、夜空を焦がす火柱である(諏訪湖のブルーウォーター・ヨットクラブ石川延男氏提供)。
この、おそらくは失火による非意図的な火入れは、草原環境にどのような影響を与えたのだろうか。それを調べる調査が、長野県環境保全研究所の手によって行われている。論者も、このほどの一回だが、見学させていただいた。
調査日(8月24日)の霧ヶ峰は、あいにく、その名のとおりの霧の中であった。植生調査は、燃えた草原、燃えなかった草原、そして、それぞれであってシカの防護柵の内にあるもの外にあるものの合計4地点で行われる。具体的には、50mの長い巻き尺で測線を設け、その左右両側1.5mの範囲にある開花している花序の数を、測線にして10m分をまとめて集計する(写真2参照)。そして、この測線は、実は、今回の野火の5年前に行われていた植生調査と同一箇所に設けられたので、燃えた所での咲く花の種類や量について、焼き払いの有無による違いをあぶりだす仕掛けとなっている。植生調査に参加するのは初めてで、大昔の大学時代に習った枠取り法とかを想像していたが、今の現実はちょっと違った。調査をされている研究所の研究員の方に聞いたところ、今は、この測線の上をドローンが飛んで撮影した動画からAIを使って花の種類や量を自動判定する研究も進んでいるそうである。

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では、調査の結果はどうか。残念ながら、たった1日の断面での調査で結論が得られるわけはない。過年度との比較を継続的に行う、その結果の研究所での論文化を待ちたいが、研究員の方々の感想はお聞きすることができた。
まず顕著なのは、焼失の有無よりも、シカの食圧の違いであった。これは私のような素人にとっても明白だ。シカ防護用の電気柵の外側では、花と言えば、ほぼ2種類、すなわちヨツバヒヨドリ(紫かかった白色の花を咲かすキク科の植物でフジバカマに近い)とマルバダケブキ(温暖地にあるツワブキの花とそっくりだが、葉はツワブキの葉から光沢を取って少し薄くしたような落葉の植物。同じくキク科)に限られていた。これらはシカが嫌って食べないそうだ。他方、柵の中は色とりどりの花が咲くお花畑状態で、燃えた所でも、黄色の花のアキノキリンソウ、ヤナギタンポポやキオン、もう種子になっていたが黄橙色の花が咲くニッコウキスゲ、白い花のヤマハハコやノコギリソウ、黒赤紫の小豆の大きいような花をつけるワレモコウ、青い花のハクサンフウロ、ノハラアザミやマルバハギ(草本でなく灌木状)などなどが多くあった。ちなみに、ニッコウキスゲやワレモコウのつぼみや花はシカの大好物だそうだ。火事よりシカの方が植生に介入していることは明らかだ。
そして火事の影響と言えば、私のような素人目では、草原に侵入した高木、例えば、アカマツ、そして低木のレンゲツツジが黒焦げに焼き払われていること以外、気づくことはない。いやむしろ、焼き払われた所こそ植生は豊かである可能性があるようにも感じた。陽当たりがよくなり、炭がまかれた環境では、埋蔵種子も含めて、様々な植物にゼロベース・ノーサイドで発芽のチャンスが与えられるので、もしかしたら、焼き払いの後の方が植生が豊かなのではないかとすら私などには思われた。直観的には、生物同士の淘汰が進み、遷移が進んだ環境にはかえって多様性は少なく、むしろ擾乱を受けた環境では前述のようにいろいろな植物にチャンスが与えられ、その結果、他の生物の棲息にも有利に働くのでは、とも思う。であれば、日本中が保護一辺倒だけではいけないとも言える。企業の経営にも示唆深い。本当のところは果たしてどうなのか、研究所の解析の結果が待ち遠しい。

2023年8月10日 今年も水俣。また新たなトラブルが。

国内・地方公害
小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

今年も、慶應大学の植原先生に誘われて水俣国際フィールドワークに参加した。今回は、ASEAN4か国の大学から訪日した、大学生8人、助手クラスの先生2人、そして慶應の5人の学生の総勢15人の部隊であった。昨年8月7日の本欄でも水俣の動きを取り上げているが、その時の報告事項は、野立て太陽光パネルの増加が川を濁らせ、流況を変えていることであったところ、今年はまた別の問題が持ち上がっていた。
それは、チッソが水銀入りの廃水を海に流していた排水口が、その面影を失いそうな改変に遭遇していることである。排水口は、写真1のとおりで、これまで、往時と同様に使われてきたため、公害の生き証人とも言える。水俣病問題のいわば聖地であり、爆心地という人もいるが、コンクリ製のフレームも排水口の蓋に当たる可動式の木製扉も老朽化してきたので、取り除く、という事業が始まったのである。この排水口は、チッソ(現在はその子会社のJNC)の排水だけでなく市街地の雨水などの排出も担っているので水俣市の所有となっていて、その水俣市が除却を始めると宣言した。そうしたところ、歴史を意図的に風化させるものだという不信感を呼び、現地の水俣病支援団体だけでなく、日本環境会議などの全国レベルの組織も反対に回った。

小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

市の説明は、単に、老朽化対策だというものであったが、反対の大きさに熊本県がすばやく動き、県が間に入って、保存の方向に事態は動き出した。実は、現行の排水口の扉は、1990年代にもリプレイスがあって1950年代のものではなく、本当の往時の姿は、80%サイズのレプリカとして市立の水俣病資料館に展示されている(写真2)。なので、私としては、現用の扉やコンクリフレームの厳密な意味での現場保存ではなく、今の雰囲気を尊重した排水口周辺の長寿命化、環境学習スポット化が一層望ましいのではないかと感じている。しかし、水俣の教訓を現在に活かしていくことは、国民的課題である。上から目線で市役所を批判するなどは、国民的課題を水俣市民に押し付けて済ませることにもなりかねない。環境に心を寄せる市外の人々も、市役所の今後の事業がより良い内容で実行されるよう、物心両面で支えていく責任があるようにこそ感じた。

2023年7月21日 諏訪湖の菱刈り

国内・地方自然

諏訪湖では例年この時期に菱刈りが行われます。毎週末を使った一連の行事で、主催者はいろいろですが、そのうちでも、7月6日からの木金土の3日間、3隻の船をピストンで湖面に出して県民参加で行う、中でも大規模なものへ参加してきましたので報告します。
そもそも菱は在来種で、侵略的な種ではないのですが、刈らなければならない理由があります。菱の葉が水面を覆うほどに繁茂すると、湖底にまで日光が届かず、着床して葉を伸ばす種類の水草が成長できなくなる結果、湖水に酸素を供給できず、湖底に貧酸素水層ができて、生態系に悪い影響を与えるのです。菱刈りは、それを防ぐためです。湖面に葉が広がりだし、花がまだつぼみのうちに、根っこから、菱を除却するのです。

写真のように、参加県民は、長い手袋をはめて、船端から身を乗り出して、菱の茎を手に巻き付け、そして根っこから抜くのです。菱とはよくいったもので、発芽の元になる種子は、これぞ菱という形を(語源なので、当たり前ですが)しています。根自体は、落下傘のように、節ごとに何段にもわたって生えていて、軟泥の湖底をしっかりとつかまえていますので、結構力が要る仕事です。それでも30分くらいの作業で船一杯の大漁です。

皮肉なことに、菱が元気になりだしたのは、諏訪湖の汚濁が、規制や下水道整備のお陰でだいぶ改善し、菱にちょうどよい水深2m程度の湖底にも陽が射すようになってからのことです。人間の勝手ですが、菱ばかりが元気になるとエビモなどの他の藻に差しさわりが出て、手長エビなどの特産品が捕れなくなってしまう恐れがあるのです。
化学肥料のなかった昔は、近在の農民が肥料にするために、競って藻刈りに諏訪湖に来たそうです。今は、化学肥料が使われるようになって、その窒素分が湖に流れ込む一方で、湖から引き出さされる栄養分は減ってしまいました。このような悪循環を少しでも逆回転するべく、刈られた菱は、堆肥にして農地などに還元する仕掛けになっています。諏訪湖を巡るこうした物質代謝のエコロジーは、また稿を改めて報告しようと思います。

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2023年6月8日 金山デッキが電気代高騰に勝つ住宅として建築雑誌に紹介された。

エネルギーエコハウス

金山デッキが竣工してから1年半が経ち、いろいろなデータが出てくるようになった。太陽光発電を始めてから14カ月、そして太陽光発電電力の系統への逆潮流が始まってからは9カ月になる。特にこの逆潮流が始まったことにより、太陽光発電パネルは(出力調整を命じられない限り)発電能力をフルに発揮できるようになった。その最新データが、「日経アーキテクチュア」という建築物供給側の専門雑誌の6月8日号(月2回発行で、通巻第1241号)に紹介された。他の3軒の実事例とともに、電気代高騰を、いわば逆手に取って、節電型の住宅を設計したり、建築したり、販売したりの好機に使おうという特集に登場させてもらったのである。
紹介された3事例は、奇しくも発電規模が9kW程度に揃っており、蓄電容量は、我が金山デッキともう一つが20kWh以上で、もう一つも13.5kWhと、比較的大容量であるのが共通点であった。
我が金山デッキについてデータを紹介すると、逆潮開始以来9カ月の買電料と売電料の差し引きで約4万円の収入になったこと(下記の図参照)、金山デッキの発電により、この期間のCO2排出削減量は3t-CO2近くになったこと、金山デッキの総電力消費量に対する発電量で見た単純自給率は220%になったことを記事は報じている。自分としては、この9カ月は、日射が少ない時期であって、日射の多い23年の5月から7月のデータを加えた1太陽年がどうなるか、大いに楽しみにしている。

それはさておき、この雑誌の特集記事では、単に3つの事例のパフォーマンスを紹介して、発電や蓄電、そして電力自家消費が有利であることを述べているだけでなく、もう一歩、大事なポイントをしっかり伝えていて、この点に好感が持てた。
具体的には、発電などと併せて、断熱などの躯体自体の性能の確保が大事であると訴えたこと、それも数字付きで実証的に訴えたことである。
我が金山デッキの外被面積当たり熱貫流率(UA)は0.32、他の2事例は、0.52、0.78と、いずれも、法律が奨励するレベルよりも断熱性能が高い。そのようなファクツを伝えるだけでなく、今回の特集では、仮に、もっと断熱を高めた場合や、冬季の熱取得を多くしたら(その代わり、夏の、不本意な熱取得も多くなる。)どうなるか、などのシミュレーションの結果も紹介している。(ネタばれになるが)断熱性は冷暖房両方への効率向上に効くこと、冬季の太陽熱取得のための開口部確保と夏の不要熱取入れとの取り合いでは、冬季の太陽熱取得がより意義が高いことなどが報告されている。
これから家を建てる人は幸せだな、と感じた。何があっても必勝の一手は、断熱創エネ住宅だ、と検証されてきたからである。
なお、記事全体に目を通すには、pdfの購入または図書館での閲覧が必要であるが、金山デッキについての報告の冒頭部分については、次のリンクで参照できる。
[ 金山デッキ事例報告(日経クロステックサイトへ) ]

2023年5月31日 学生が立案するSDGs達成アクションプログラムへインプットした。

国内・地方資源・ごみ
小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

私の学部の母校、慶應義塾大学では、学生が主体となってSDGsの達成に貢献する具体的なプログラムの組成を進めている。無作為抽出で指名された学生も含めた「塾生会議」がSDGsの慶應キャンパスへの適用(ローカラーゼーション)やその達成のための行動プログラムの提案などを担っている。これは、かつてのフランスで行われた環境グルネル(グルネルは元々は通りの地名で、仏のいわゆる五月学生革命で、市民が熱心に討議を行った故事にならった、市民熟議のこと)などと言われた、非自発的な者の参加も求めた合議組織が、今日の英仏では、無作為抽出の市民による「気候市民会議」などとして定着してきていることに倣ったものだ。
この塾生会議では、2022年度に第1期の活動が行われ、本23年度は代替わりして第2期の学生たちが、SDGsの推進に新しい目で取り組んでいる。私は、その2期目の検討作業に対し、ESGのうちEの観点からインプットをするよう依頼された。当日は、10学部すべてのキャンパスから日吉に6時半過ぎに70名ほどの学生が参集した(その様子は写真のとおり)。私のインプットでは、万物のつながりが環境だ、とかの、そもそも論も述べたが、実践面での助言は、煎じ詰めればこの1枚である。

小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

提案するプログラムが、教育活動の環境側面の向上を含むべきことは当然だが、その前段として、環境の果たしている役割に対する深い理解を醸成するプログラムもあるべきだし、それらの正面のプログラムを資金的、人的、あるいは時間的に間接的に支えるプログラムもあってしかるべきだ、とするものである。当日は、提案作業の模擬演習として、大気や水などの環境要素の大切さを体験できる学生・教職員用のアクティビティを、即席のグルワで提案してもらった。学生たちからはかなり面白く実用性があるアイディアも出され、たのもしく感じた。

2023年5月8日 本郷のまちづくり大学院主催のセミナーで脱炭素のまちづくりを旗揚げ

国内・地方まちづくり
小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

東大の大学院工学系研究科のコースの一つ、「都市持続再生学コース」は、略称は、「まちづくり大学院」とも呼ばれていますが、とてもユニークな学びの場です。それは、入学資格が2年以上の社会人経験を有することになっている点にあります。言い換えれば、大学を出て実務を担って、そして、もっと知識や技術を身に付けなければ、という気づきが芽生え、意欲に燃えた方々が履修生になっていることです。
そうした履修生の期待に応えるため、教授科目も、極めて課題オリエンティッドになっています。高齢化、少子化、防災、交通などなどの問題をまちづくりの中でどう軽減し、解決していくかが、斯界の最先端の取り組みをしている講師から講じられます。GISやフィールドワークといった技法は演習で実践され、仕上げの修士研究で、自分の問題意識に応じたテーマに関する考察が、他分野の先生方の指導、助言の下で行われます。
開講以来これまでの15年間で合計198名の修士が誕生しました(ちなみに、学期は10月から始まります。外国からの留学生もいました。)。実は私もその修了生の一人です。環境省の官房長の頃に通いました。
この大学院の、今年度の受験申し込みを控えて、その活動を広く紹介するアウトリーチのプログラムが、5月8日の、(社会人大学院なので)夜に開かれました。このイブニングセミナーのテーマは、脱炭素まちづくり。
基調講演は、竹中工務店の建築の中での脱炭素の取り組みについて、同社の佐々木社長が行い、さらに、写真のような出席者から、まずは東大副学長の浅見先生が東大の脱炭素に向けた対策や大学ならではの研究開発、人材養成の現状についての報告をし、そして、小泉先生(本コースのコース長)からは、自治体の現実のまちづくりの中での試行錯誤が報告されました。
私も登壇していましたが、この新学期から、新科目「脱炭素論」を開講することを述べ、その簡単なシラバスをお披露目しました。この新科目は、村山顕人先生と一緒に進めるもので、概要は、リンク [ 脱炭素論スライド ] のとおりです。大学院ですから、体系を立て、原理的な骨格を持った形で各地の取り組みを整理して、一層の発展を可能にするような発想と仕掛けの実用的な収納庫を用意したいと念じています。また、その内容は、この大学院の講義を踏まえて既に何冊も公刊されている「まち大シリーズ」の単行本としても世に問うていきたいと考えています。乞うご期待。

2023年4月14日 茅野市の行政アドバイザーに任命され、さっそく活動開始。

国内・地方まちづくり
小林光・研究顧問の部屋 折々のニュース

地元紙(長野日報)の記事のように、令和5年度から、茅野市の行政アドバイザー(環境)に任命され、14日に今井市長から辞令を頂戴しました。この役は、いわば、相談役や顧問みたいなものですが、たった今の断面では、他の分野で助言を担当する方が3名、歴代合計では30名ほどが任命されたとのことでした。環境保全分野では2人目。初代は、陸水学会の第10代会長の沖野外輝夫先生で、私が2人目の由です。かつては諏訪湖の水質汚濁が大きな問題で、上流域の茅野市での水質汚濁対策が課題だったのだと思います。私の任務は、沖野先生時代と同様に市外にわたる広域的な問題への取り組みの立案ですが、今回は、地球温暖化対策。2050年の脱炭素を見据えながら、2030年への足元の対策を助言して欲しいとのことでした。
発令のあったさっそくその日の夜、先日、包括連携協定に調印した東大先端研の杉山所長と遠隔で結んで、茅野市にある諏訪中央病院の須田医師とのディスカッションを、拙金山デッキから行うようアレンジしました。茅野側のこちらは、写真のとおり、私の手料理を食べながらの意見交換でしたが、杉山先生におかれては、所長室から勤務の一環として対応していただいたようで、申し訳ないことに、お酒も入らない討議を強いてしまったようです。
しかし、結果は豊穣。地域医療DXも脱炭素GXもそれぞれに進めなければならない取り組みはありますが、さらに互いのおいしいコラボができそうだ、との展望も開けてきました。そのコラボ、例えばですが、住宅の断熱改修と診察の遠隔化は、住民側にも医療側にもおそらくウィンウィンの関係にあるでしょう。何ができるか、さらに参加者を広げてワークショップを開こう、となりました。金山デッキの設備や通信環境が役立って、発令初日としては、大漁旗の気分でした。

2023年4月16日 長野日報

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2023年3月21日 金山デッキで初セミナーを開催

国内・地方エネルギーエコハウス
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我が金山デッキは、学生さんの合宿、専門家のサテライトオフィス、そして会議などが行えるよう、大きなテーブルや同規格の椅子11脚、そして、いずれも4K対応の、天井に巻き上げるスクリーンや高性能のプロジェクターを備えている。
ここで、諏訪圏の企業の方や市役所の環境担当官など10人が参加し、中国からいらした裘氏(上海で水素利用に関してコンサルをしている。慶應SFC大学院での私の教え子の一人。)が講師となって、中国における水素利用の現状や今後の動向について勉強会を開いた。ここでの勉強会の開催は初めてである。様子は、写真のとおりで、ちょうどこの位の規模のセミナー開催が金山デッキには最適な規模かな、との経験を得た。
中身は、東大先端研の社会連携事業、REglobalにおいて昨年同氏から遠隔講演をいただいたものをアップディトしたもので、それに加え、ラオスで急速に進んでいるEV利用の報告もあった。参加した企業の方々は、自動車組み立て企業に金属部品を納める仕事の方々が多かったので、中国の自動車製造業やタクシーやトラックなどの自動車ユーザーに対する中国政府の明確な政策リーダーシップに驚き、また、燃料電池車、EV車の製造の上流にある部品供給工場の置かれた立場に強い関心を寄せていた。10人程度の規模のセミナーは、このような立ち入った事項について意見交換を深めるにも良い規模だな、と感じた。
金山デッキのしつらえが、セミナーに使えることが分かったので、これから定期的に活用できたらとの気持ちを強めている。

2023年3月15日 先端研と八ヶ岳西麓3市町村との包括連携協定が結ばれた。

国内・地方まちづくり

3月14日、茅野市役所において、東大先端研と茅野市、富士見町、原村の3市町村との間で包括連携協定が結ばれた。当日は、杉山正和所長と3首長とが一堂に会して協定書への署名式を行った(写真1参照)ほか、杉山所長による記念講演、そして、所長、3首長が意見交換するパネルディスカッション(写真2)が行われた。
東大先端研が自治体と結んでいる連携協定は、今回のもので25本目を数える。杉山先端研所長は、記念講演で、これらのうちの、特に自治体職員を先端研にお迎えして濃密な協力を行っている4つの事例を取り上げて、協力の実際の中身を説明し、各首長さんが今後に具体的な協力プロジェクトを発案していく上での参考情報を供した。
具体的な協力の内容やその進め方は今後の検討によるが、3市町村それぞれが、独自の関心を明らかにした。茅野市からは、防災のIT活用に強い関心が寄せられたほか、エネルギー自立のまちが理想としても、農業や製造業で再生可能エネルギーをどう活用していくかのディテールを問うた。富士見町は、エネルギーの地産地消を自分事にする方法を問い、また、リニア新幹線の甲府市駅経由で東京都心まで1時間になることの地域へのインパクト予想に関心を示した。さらに、原村は、まちづくり人材による地元のファッシリティション、さらに移住人材の活用や地元ニーズとのマッチングに関心を寄せた。いずれも、地域おこしと自然共生を併せて進める、夢のある話だ。
ちなみに私自身は、令和5年度から茅野市の行政アドバイザー(環境)の発令を受けて、様々な助言を行うことになっている。また、原村との間では、まずは、5月下旬に八ヶ岳の北麓側、上田市にある椀子ヴィンヤード(メルシャン酒造のワイナリーの一つ)を村職員と一緒に訪問することにしている。ここは、国際的な評価の高いワインを生産するだけではなく、ブドウ栽培の畝の間に郷土種の草原性草本類を生やして生物多様性を高め、製品生産性も高める多自然農法を試み始めていて、ワイン活用で活性化を目指す同村の大いに参考になると目される。
さらに、14日は、署名式や首長さん方との意見交換といった公式の行事の他、その散会後には、さっそく私の呼び掛けで、西麓の3市町村にある商工団体、そして会員企業との間で意見交換を行う機会を設けさせていただき、脱炭素に向け、抱えている課題の把握を試みた。この場では、私からは、環境ビジネスのコツを講演し、東大教養教育高度化機構の同僚客員教授の田中良先生は、太陽光発電を活用するコツを講演した上で、意見交換をした。私のものは、実は、東大駒場で去る秋学期に開講したゼミ「グリーンビジネス方法論」のエッセンスであり(使ったスライドはこちらから参照。)、田中先生のものは、お仕事として長く担当されてきたNTTファシリテーズにおける太陽光発電の開発経験の蘊蓄などであって、企業の方々にはいずれも即戦力強化になるとして好評であった。これらを受け、地元企業との間では、地産の再エネを地域で配電して地消する会社の可能性などが議論になったが、頼もしいことである。

写真1

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写真2

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2023年2月6日 理科大のシンポで、これまで23年間にわたった自家発電・蓄電の経験を報告した。

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東京理科大の再生可能エネルギー技術研究部門が主催する研究発表会が、1月31日に神楽坂で開かれ、招待報告を行った。

テーマは、「家庭での長期にわたる太陽光発電、蓄電池利用の一事例と政策への示唆」である。論者の実経験を踏まえ、太陽光発電が十分に信頼が置けるものである一方、蓄電池システムを特にレトロフィットで使いこなすことにはまだ技術的にも経済的にも困難があることを述べた上で、いくつかの政策提言を行った。

すなわち、(1)北側に向いた本宅(羽根木エコハス)2.3kWのPVによる自給率は30%以上、南に正対する2.7kWを設けたエコ賃貸(羽根木テラスBIO)では80%以上、そして、21年末竣工の八ヶ岳麓の金山デッキでは東南向き8.8kWのPVで215%の自給率となっていること、(2)蓄電システムについては、7kWh相当の羽根木テラスBIOの蓄電池の有効利用率(インプットとアウトプットの比)が67%で、順調流制御などのための買電が発電量比12%であり、一層新しい金山デッキの23kWh相当のものの有効利用率が84%で、買電が発電量比4%であって、改善が見られるものの順調流制御などのための買電量はなお大きいこと、(3)これらを踏まえ、蓄電池活用への技術サポートの強化、そして、家庭用蓄電池の夜間逆潮とその場合の時価買い上げを認めることを含めた積極的な蓄電池活用策が必要であること、などを発表した。

この発表の予稿はこちらのリンクで、また、発表に使ったpdfスライドはこちらで参照できるので、ご関心の向きは目を通していただきたい。なお、当日は、他に3本の口頭発表、33件のポスターセッションでの発表があり、なかなかにエキサイティングであった。再生可能エネルギーの実装拡大に向けた研究の出番はますます大きくなっている。

2023年1月12日 自給率215%。金山デッキの8.8kW・PV+23kWh・蓄電システムの5か月パフォーマンスを寒中見舞いのコンテンツにした。

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2020年から年賀状を出すことはやめた。去年来ていたからと今年も年賀状を惰性的にものし、投函する方がいらっしゃらないとも限らない。また、頂戴した年賀状に返信しないのも欠礼のような気持ちになるものである。喪中の方への対応を含め、年賀状の送受には気を遣う。そこで、終活の一環として、こちらから年賀状を出すのはやめて、わざわざ年賀状を頂戴し返信した方がよい個人の方や、お世話になった方への当方からの一方的な報告のために、寒中見舞いを出すことにした。これなら、断りなくいつでもやめられるし、貰った先方にも返信の義務感は生まれない。
さて、今年の文面は見てのとおり。
メインのコンテンツは、金山デッキの電力データ。8月から逆潮が許され、フル稼働できるようになったので、それ以降の、22年末までの5か月間の発電と消費のデータである。蓄放電ロスを含めた総消費量に対する発電量の割合は215%、純自家消費と逆潮により回避できたCO2量は1230㎏となった。Zero Energyを超えてMinus Energyの領域に到達した。
今後は、単年度のCO2削減量の累積でこの家のライフサイクルCO2を相殺していき、ゆくゆくは帳尻をマイナスにすること、そして、家の寿命を極力長くして、通常の家の4倍もの木材使用密度に裏付けられた多量の炭素貯留を継続し、炭素放出のスピードを抑えることが望みである。また、できることなら系統への漫然とした逆潮ではなく、茅野の脱炭素に貢献する形で我が家の再エネ電力が使われることを期待したい。これらの点の実現へ向け歩みを進めることが新年の抱負だ。

2022年12月5日 世田谷区と神奈川県の環境審会長職を了した。

国内・地方まちづくり
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神奈川県の審議会については2021年度末の3月に、世田谷区については暦年のこの年末に、それぞれ10年間の再任可能任期を満了して委員、会長職を辞することとなった。審議会は、合議制の意見形成機関であって、環境の場合には、環境保全の観点からかくあるべし、という意見を行政当局に対して述べることが職責である。特に自分の場合は、中央の環境行政のOBであったことから、2点に気を付けながら、意見形成のお手伝いをしてきた。一つは、自治体の創意工夫と責任発揮を最大限に目指すことであり、もう一つは、お役所の縦割り・前例主義文化からの脱皮を目指すことである。中央官庁の美質も知っているが、逆に、中央官庁の手が出せないことや役所一般の持つ欠点も痛感していたので、それを少しでも直そうという趣旨である。意図が少しは果たせたのか、心もとないが、それなりに充実した審議会委員経験ではあった。

自治体審議会会長としての最後のお仕事は、世田谷区の次期温暖化対策推進計画の答申、そして、世田谷区の建築物の環境対策の審査に用いる評価・採点表の改定の答申であった(神奈川県では、プラ製品のポイ捨て防止・循環利用を進めるための条例改正案が最後のお仕事)。写真は、答申を保坂区長に手渡した後の記念写真。

この温暖化対策計画案では、2030年の目標を2段階設け、厳しい挑戦目標をGHGsの66%削減に置いている。おそらく全国の自治体の中でも最も野心的な目標であろう。国の46%削減政策、都のカーボンハーフの政策に加えて区独自の政策でどれだけ追加的な削減が果たせるか、積み上げ計算を行ったが、つま先立ちしても57%強の削減しか見込めないので、区外からの再生可能エネルギー起源の電力の大量導入などがないと到底果たせない目標である。しかし、66%は、国の計画で住宅部門に期待した数値であって、住宅都市と言える世田谷区では、これに近い結果を出さないとならない。目標と政策には大幅な隙間があるが、敢えて高い目標を掲げて区政を進めていただく内容とした。答申では、したがって、計画本文の案に加えて、隙間を埋める取り組み、すなわち、まだない新規施策の予算措置への要望や川場村などのかねて連携している自治体との共同取り組み等を付言した。

世田谷区民でなくなり2地域居住を始めた自分としても、自然に恵まれた地方自治体での再生可能エネルギーの一層の開発が大都市自治体や都市民の資力・技術力も得てさらに進められたら良い、と思うので、答申し放しでなく、その実現に係わっていきたいと念じている。新たな地元、茅野市では、脱炭素アドバイザーに任命されているので頑張らなくては。

2022年11月4日 鹿は増えているのか?ライトセンサスに参加した。

国内・地方自然

日本の各地で鹿が増えていると言われている。自分は、1999年の鳥獣保護法の改正に環境庁自然環境局の総括課長として関与し、例えば増えすぎて困るような鳥獣の個体群の頭数などを含む管理のための計画を都道府県知事が策定し、管理を実施していく制度を導入した経験がある。当時は、神ならぬ人間が野生生物の命を制御することの可否が大きな論点になった。その後、この制度は定着し、さらに強化がなされているが、個体群がきちんと管理されているのか、につき、かつての担当官として引き続き大きな関心を持っている。
鹿が、しかし、増えているか否かの判断についてはファクチュアルにはなかなか難しい。
茅野市の場合は、農作物被害額や鹿の交通事故死件数でみれば往年よりは減っていると聞く。電気柵の設置、箱ワナによる駆除や銃器による狩猟が行える場所では行われているためである。しかし、他方で、狩猟が及ばない別荘地が聖地となってむしろ増えている、といった意見も聞こえる。決着をつけるには、頭数そのものカウントが避けて通れない。茅野市では、路線を決めたライトセンサスを非積雪期の4月から11月のそれぞれ月末に行っている。その10月末の調査に参加させてもらった。
写真1のように車から強力なライトで鹿を探す。この写真でも、3頭の鹿が浮かび上がっている。遠いと、姿は見えなくとも鹿の眼からの反射光が青白く見える。写真2はその様子だ。
1時間半ほどを掛けて、農業振興地域と、その上部の樹林地(旧入会地で、今は、土地を共有する財産区が一般に貸し出した別荘地になっている)の境に当たる道路を北から南の原村方向へと走った。この日に確認されたのは97頭。昨年の月別平均確認数(41頭)と比べると、倍増以上である。引率して下さった係長さんによると、これまで熱心にワナを仕掛けてくださった方が体調のせいで相当の期間現場に来られず、その結果、小鹿や若い鹿の頭数が増えてきているように見える、ということだった。微妙なものだ。鹿の命を粗末にせず、きちんと経済ベースで利用させていただくことなどにより、個人の努力などに過度に依存しないで個体群管理ができる仕掛けを作っていかないといけない、と改めて感じたセンサス参加であった。

写真1

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写真2

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2022年10月18日 金山デッキが「新建築」誌で紹介された。

国内・地方エコハウス
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新建築は、大正14年創刊で長い歴史ときれいな編集で知られた建築の専門雑誌である。建築界の動きに関するレビュー記事を掲げ、建築ジャーナリズムをリードしているほか、最新の建築作品を、写真のみでなく図面や経済データなどと一緒に克明に紹介している。その10月号は木造建築特集。21の建築例を紹介している。大きな建築例がほとんどである中、末尾の4つの見開きを充てて、金山デッキが掲載された(新建築社は、住宅のみを紹介する雑誌も別に刊行しているので、木造住宅として紹介されるべき建築例が乏しい、ということではおそらくないであろう)。

建築家である中村勉先生が、設計のポイントを説明する文章を書かれ、私は、金山デッキに期待する役割を短く解説した。木造の特集なので、中村先生が特に紹介したことは、縦ログ構法という、10.8センチ角の柱を縦に立った状態で10本程度を緊結してパネルを作り、構造柱の間にはめ込むことで、地震などに対して特別に強い構造を作り出す工法のことなどであった。おかげで、この建築は、通常の住宅より4倍近い量の木材を使い、結果として、多量のCO2を貯留したことになった。建築に関心を寄せる方は、是非、目を通してください。なお、金山デッキについては、10月5日付けの本欄にて紹介したデザイナーの持留和也氏が、その外観と周辺景観とをドローンで撮影したときの動画も公開している。併せて見ていただけたらと思う(https://youtu.be/dP8EFldsIWE)。

2022年10月12日 南オーストラリア州首相の来日で感じたことNew!

国際・海外国内・地方エネルギールール経済

ピーター・マリナウスカス氏が来日した。南オーストラリア州が今後豊富に生産することになるグリーン水素の販路開拓を目指す首相自身によるトップセールスのためだ。10月9日から12日まで滞在し、各界との面談を重ねた。その一環として、東大先端研に置かれる社会連携のプログラムである「REglobal」(再生可能エネルギーの世界ネットワーク)に参加する産学のコンソーシアムと南オーストラリア州政府との間で、グリーン水素開発協力に関する共同宣言へ自らサインした。このコンソは、グリーンな水素がこれからの肝だ、と確信する日本企業がほぼこぞって参加する集まりで、私もこのコンソメンバーとして、この調印式と記念の招宴に参加した。

この機会では、マリナウスカス首相のスピーチが力強かったのが、何と言っても印象深いので、そのあらましを紹介しよう。

同首相は、同州には風力資源も太陽光資源も共にあって豪州大陸の中でも恵まれた、再生可能エネルギーの生産コストが最小の地域であることを述べ、そのことを背景に、電力生産に占める再エネ割合が既に68%に達していて、2030年までには再エネ100%を実現する、と述べた。そして、過剰な再エネを吸収して水素として貯蔵する水電解装置については、既に豪州最大のものが稼働しているが、25年には250メガワットの世界最大規模の電解装置を設ける計画が決定されていることも強調した。スピーチでは、最後に、南オーストラリア州では、たとえ政権政党が代わってもグリーン水素の活用方針は揺らぐことがなく、かつ、日本との長期的な互恵的な関係維持が極めて重要視されていて、価値観を共有する安定的なパートナーとして今後もあり続けられる、と結んだ。環境のためには、政治に人を得ることの重要さを再認識させていただいた夜であった。

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2022年10月7日 金山デッキの無線局のコールサインが決まり、QSLカードを作った

国内・地方自然
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本欄で既にお知らせした、アマチュア無線技士免許のクラスアップを受け、八ヶ岳・金山デッキで新しい無線局をいよいよ開局した。アマチュア無線は、電離層に短波電波を反射させて長距離の無線交信するもので、刻々と変化する電離層の状況を通じて、地球環境の造化の妙を感じることができる趣味だ。

ところで、その無線交信をする際には、常に自分が何者であるかを明らかにしておく必要があり、その識別符号がコースサインである。コールサインは、無線局免許状で定まる。このほど、免許状が届き、コールサインが決まった。

それは、JJ0WSQ。Jは、日本にある局を示し、0は信越地方を示している。信越圏では、初期の局はJA0AAAから始まって、JI0XXXを経て、今、JJ0…まで局が増えてきたということである。WSQは、Washington Secret Questionsとでも説明するのかな、しかし、自分の局を電波でそう呼称すると、CIAに目を付けられるかもしれない、などと勝手な想像を逞しくしている。

アマチュア無線家が交信をした証明を交換することがある。その証明書がQSLカード。コールサインが決まったのでさっそく作った。デザインは持留和也氏。ドローンを飛ばして、屋根上のアンテナとその向こうの八ヶ岳連峰を収めてくださった。交信相手に八ヶ岳とその自然環境に好印象を持ってもらえるものと期待している。

2022年9月11日 キノコが大好き。

国内・地方自然

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夏から秋はきのこシーズン。八ヶ岳周辺でも、地元の、違いが分かる人はキノコ採りに余念がない。私もキノコ大好き人間。おそらく毎日何らかのキノコを少しは食べている。けれども、私のキノコ取り場所は、長らくスーパーに限られていて、野山で違いが分かるほどの知見はなく、食材のバラエティ、そして感動には欠けていた。
そのような反省から、八ヶ岳暮らしでは、市立博物館が組織する市民研究員に加わらせてもらった。研究グループは8つほどあり、地域伝承の掘り起しと記述といった人文的なことから天文観測といった物理学的なテーマまでいろいろである。その中のキノコグループに加えてもらったが、ここは、エピキュリアングループであるかもしれないが、その正体はほとんど隠して、相当マニアックな理学的、学究的な集まりになっていて、大いにびっくりした。活動の狙いは、八ヶ岳地域未記載種やそもそも本邦初発見種、新種などを見つけて、生態写真の撮影、乾燥標本作成、顕微鏡観察やDNA解析での同定を行い、市立博物館の所蔵情報を増やすことや学会誌へ論文投稿することにおかれている。私の関心とはかけ離れて、高度な問題意識なので、心底感心した。
参加者は、しかし、学者さんでは決してない。地元生まれの方から、別荘の常連住人、そして移住者と多岐にわたる市井の人で、皆さん気さくであり、さらに奇遇だが、環境省で同期入省のレンジャーさんOBのご夫妻(移住者)もいらして、親切なアドバイスももらえて居心地自体は悪くはない。
さらに、実際の活動では、月一でフィールドワークに行くのだが、しかし、そうした学問的な珍品ばかりが、生えているキノコのすべてではあるはずはなく、そこはやっぱり、おいしそうなキノコに嫌でも会えてしまうのである。
私が見たのは、例えば、写真1のヤマドリダケの1種(これはフランスではセップ茸、イタリアではポルチーニで、西洋料理でのマツタケ級キノコである)、写真2のカラマツベニハナイグチ(これは、ガーリックバターソテーにしておろしポン酢で食べた)、写真3の、現地の人はアメリカイロガワリと呼ぶ図鑑にないもの(切っていると黒紫に変色するが、火を通すと普通のキノコの色に戻る。これはツナと炒めてスパゲッティの具にした。)。食い意地だけの人と思われると研究員の肩書が泣くので、大手を振って食材を得るには学識も得ないとと思う、屈折した気持ちの、食欲の秋の報告は、以上で、終わり。

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2022年8月7日 久しぶりの水俣。再生可能エネルギー生産は増えたけれど。

国内・地方エネルギー公害

2011年から19年まで教授職だった慶應で始めた水俣での国際フィールドワークはコロナ禍で中断していたが、防疫体制がしっかりしてきたので復活することになった。私にとっては3年ぶりの水俣で、植原先生と一緒に、インドネシアはバンドン工科大学の学生さんと先生、慶應SFCの学部生、院生合計11名を引率した(写真1は、チッソ工場の水銀を含む廃水が海に排出されていた百間放水口(現役である)を見学する学生たち)。植原先生は、SFCの本流、情報技術・コミュニケーションを専門とする中堅の先生だが、水俣での国際フィールドワークを引き継いでくださったほか、情報のゼミに加えて水俣学のゼミを開いて下さっている。さらに、持ち前のPCやセンサーの技術を活かし、水俣高校の生徒の情報化のお手伝いやドローンを飛ばしてのお茶の育成状況把握の研究など、地元貢献をして下さっている。先生は実は熊本がご出身。水俣の海で子供の頃に泳いだこともあるそうだ。私が、退官後の数年限りの、いわば腰掛先生だったので、きちんとした教員がいらっしゃって本当に良かったと感じている。
フィールドワークでは、学生さんにいろいろな情報を仕入れてもらって、最後は、水俣の活性化に向けた提案を国際的な視点、若者の視点からまとめて、発表してもらう。私など引率の先生も、学生の取材を通じて水俣の最近の動きを学ぶことができる。
3年ぶりの水俣では、環境・防災性能を追求した水俣市役所新庁舎(去年12月開庁。写真2参照。)なども面白かったが、新たな状況として心配になったこともあった。
それは、メガソーラーを設けるため、そしてバイオマス発電の進展やウッドショックへのリアクションからも、森林伐採が進んでしまい、川の濁りが増え、土砂災害への市民の懸念が高まっていることである。聞く所によれば、倒産したゴルフ場の土地を再開発し、61MWの太陽光発電所が設けられた平成30年以来、今日までの、MW級の太陽光発電所の新設は累計131MWになるそうである。少なく見積もっても130haもの、流出率が高い土地が出来てしまった。
再エネ主力電源化は今や国策である。国策を、FITといった、広く電気使用者に価格を支えさせる政策のみに頼り、基本は私的経済活動に任せ切りでは無理が起きよう。私企業では、自然・水質の保護や防災には十分に手が回らず、そのうちFIT満了の20年後には発電現地から後始末なしに撤退してしまうかもしれない。大規模ダムや基幹の火力発電所など電源開発にはかつて国策会社が設けられたりした。また、電源開発促進税が課されて特別会計が作られその資金が原発に投じられた。こうしたことに倣い、再エネについても、炭素税を原資として、再エネ開発の副作用を取り除く公的な組織が設けられるべきではないだろうか。そんなことを考えさせられた、3年ぶりの水俣訪問であった。

写真1

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写真2

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2022年7月17日 アマチュア無線の出力を上げる準備ができた。

国内・地方自然

長野県茅野市、八ヶ岳の麓にある金山デッキは太陽光発電の適地を選んで建築したが、その付随効果として、東南から西側にかけて見通し距離がとてもある、無線交信適地でもある(もっと良いのは、電波を遮るものがない山頂部)。そこで、今一度、アマチュア無線をしてみようと、子供の時に取った電話級(現4級)に代えて、空中線出力を5倍増の50Wまでにできる3級無線技士になることとして、過日、試験を受けた。今時なので、試験はパソコンの前に座って電子的に回答する。結果は直ちに分かるし、合格通知も電子メールですぐきた。そこで、3級の免許書を間髪入れず申請するとともに、かねて工事だけして金山デッキに取り付けてある状態のアンテナ(写真1)の周波数特性の微調整などを行った。これは自分ではできないので、子供の時以来ずっとアマチュア無線を趣味としている弟にそれ専門の測定器を持ち込んでもらって実行した。送受信機をつないで、弟がそのコールサインで通信してみたが、青森の横浜町や北海道は釧路などからの電波をきれいに受信することができた(写真2)。
とても不思議なのは、地球に電離層があって、弱い電波でも遠くの無線局と話せることである。人間が、今のように数百メートルにアンテナ一つを置かなければならないような、直進だけする代わりに大容量の通信ができる仕組みを発見し使いこなすようになれたのも、まずは、もっと低い周波数で遠距離の通信ができるという電波の利点を発見していたからに違いないと、自然の作りこみの不思議さ、もっと言えば教育的な配慮に改めて感じ入った。
東京に無線局を置くJR1KLIのコールサインは廃止し、近々、八ヶ岳から新しいコールサイン(おそらくJJ0W…)で登場する予定である。Skypeでのテレビ電話どころか、Zoomでの遠隔セミナーや会議もできる現代でも、アマチュア無線のように自前の遠距離交信手段を持っていることは、地球の造化の不思議を体験する機会になるし、災害に備えることにもなる。空でお会いできる方は、その節はよろしくお願いいたします。

写真1

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写真2

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2022年6月17日 ラジオ番組で、東京都のソーラーオブリゲーション政策を支持しました。

国内・地方エネルギールール経済まちづくり
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半年ぶりにラジオ番組に出ました。テーマは、今年のG7サミットの文脈の中で、日本の骨太方針などの足元の環境対応をどう見るか、といったことでした。その足元の対応に関しては、私の方からは、環境をよくすることへの負担を引き下げようとすることだけでなく、環境をよくすることの責任を強化し、環境の利用費用をきちんと負担することも欠かせない、と述べて、骨太の方針にある「カーボンプライシング」の具体化を支持しました。
また、同様の文脈でもって、東京都が今検討を進めている、一種のソーラーオブリゲーションについても、その具体化を強く支持しました。
ネットなどで見聞きするところによれば、東京都のこの規制への批判が多いようです。その根拠を見てみると、(地球温暖化はフェイクだ、といった意見は取り合う必要がないにせよ)要は都民負担が増えるから嫌だとか、百歩譲って太陽光を利用するとしても、東京のような建て込んだ所では費用効果が悪く、どうしてもやりたければ田舎でやればいい、といった、環境の恵みを利用する料金の負担を少しでも避けて通ろうという魂胆の、さもしい意見ばかりです。正直がっかりしました。まあ率直に自己中であると吐露しているのでわかりやすい、とも言えますが、こうした自己中な考えがこれまでの環境破壊の原因だったことへの反省は全く見られません。さらに心配なのは、環境へ投資することが新しい成長の源泉になる、といった想像力も見られません。
脱炭素はやらなくてはならない国全体の既定方針です。その実行役は、環境を使っている人の皆です。家電を作って売る人や自動車を作って売る人と同様、ビルや住宅を作って売る人も、製造者の責任として高い環境性能の建物を作り、売る責任があることは明白です。こうした製造者も含め、そもそもは、環境を使う(この場合は、CO2のゴミ捨て場として大気を使うのですが、)人が、それぞれその責任として自分から出るCO2をゼロにすることが大前提になります。その上で、しかし、ある人がその責任を十分に果たせないことも起きるでしょう。そうなら、責任を帳消しにするのではなく、その責任をもっと円滑に、いわば過剰に果たせるような他の人にお願いして頑張っていただき、その過剰な環境保全の成果を正当な代償の下に譲っていただくというのが筋です。僕はお金儲けは得意だし、そのために全力投球だから環境保全の役割は最初から免除してね、環境保全はお金儲けが下手で日当たり良好な田舎の人が適任だよ、というわけにはいかないのです。家がたくさん新築される東京が、家に伴う脱炭素の責任をむしろ進んで逃げてしまう、などといったことを合理化できる理屈などありません。
責任逃れを画策する時間があるなら、そんな無意味なことに時間を使うより、どんな責任の果たし方が適切なのかを考えましょう(ちなみに、東京都の案は京都府や京都市よりは厳しく、ドイツのいくつかの州の規制よりは緩いようです。)。また、住宅やマンションからのCO2が減り、住まい手に取っても電力不足や災害、そして電力代金高騰への抵抗力が高まるのは良いことですが、それだけでなく、余剰になる太陽光起源のカーボンフリー電力を折角なら都民のためにうまく使えないのか、といった建設的な検討にこそ、皆さんの頭と時間を使おうよ、と思いました。
皆さんにもグッドアイディアがきっとあるでしょう。東京都のパブコメ募集に付き合ってみませんか。
なお、ラジオ日経「町田徹の経済レポートふかぼり」の過去放送分はPC経由で(http://www.radionikkei.jp/fukabori-report/)聴けます。

2022年6月2日 太い柱をわざわざ引きずる、お祭りの不思議

国内・地方自然
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写真1

今年の初夏の諏訪は、諏訪大社の御柱を建て替える、干支一巡に2回の年に当たっていた。人々がまたがった柱を坂から滑り落とす、危険で勇壮な木落しの儀式で御柱祭りは知られているが、それ以外にも、見せ場も、氏子の参加ができる場面もしっかりと用意されている。今年は、コロナ禍の中でのお祭りなので、多数の観客が集まるようなことは避けられ、例えば観光客の観覧はまったくできなかった。私には正常年と比べられないもののきっと多少は寂しい雰囲気だったのだろう。しかし、こちらは観光客ではなく住民なんでうまいこと参加でき、この伝統のお祭りの不思議な雰囲気を味わうことができた。
住民の識別は、住んでいる集落ごとにあつらえるそろいの法被で行われる。例えば、我が金山デッキの建つ金山区のはこんな具合(写真1参照)である。
この法被を着ていれば、諏訪大社の上社下社のそれぞれにある2つのお宮の四隅に建てられる、計16本のうちのどれか1本の担当の柱の里曳きというお祭りの一部分で柱を引く一員になれる。長くて重い栂材をコロもつけずに地面を引きずるのである。100m以上の長くて太い縄が柱には結ばれ、この縄にさらに個々人用の細い縄をくくりつけて、皆が力を合わせて掛け声や進軍ラッパに合わせて引くのである(写真2)。コロナでなければ、沿道にあるお家は、皆、食べ物やお酒を用意し、そこに立ち寄る見ず知らずの人も含めてふるまいをして大いに歓待、蕩尽する。聞くところによれば、この、いわばポトラッチのために、地元の金融機関では6年の積み立て貯金という仕組みまで用意しているとのことである。
どの柱を担当するかはハズレのない籤で決められ、お宮まで曳かれた柱は、今度は、ゆっくりと(半日ほどを掛けて)立ち上げられ、そして、神と地上をつなぐいわばアンテナになり、また神域を守る結界杭になる。この儀式は建て御柱、と言われ、若者が徐々に傾斜を増す柱に立ったまま最後は柱にすがる形でそのプロセスに付き合う(写真3)。担当の柱の周りには、その地区の住民が陣取って、声援を送る。この他にも見せ場、参加の場は多い、私も下社境内の小さな坂で行われた木落し、そして、子供がお殿様の役をしてお宮参りをする不思議な儀式などを見ることができた。いっぱいの、謎めいた所作もある細部が、地元の人々に連綿と受け継がれていることが大変に印象深かった。
お祭りは地域結束の手段ではなく、お祭り自体が目的で、その実行のために結束が必要なのだろうが、しかし、足掛け7年に一度の希少性や結構な危険、守るべき複雑な儀式の段取りや所作、そして柱を引いたために生じるごみ掃除まである役割があってこそお祭りの価値も高まり、結束の意義も生まれるのだろう。自己運動する社会的なエコシステムの仕立て方として大いに興味を惹かれた。

写真2

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写真3

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2022年4月30日 住宅の環境性能の把握方法とは

国内・地方エネルギーエコハウス

東大での研究の一環で、昨年度末、3日間をかけて金山デッキの環境性能を実測しました。環境性能のうち重要なものは断熱性能ですが、その程度を表す、例えばUA値は、普通は実測値ではありません。こういった材料を使って標準的な技術で施工すればこういった断熱になるはず、という、いわば約束事の数値、あるいは設計値、シミュレーション値の性格のものが普通です。私としては、そうした約束事がどれだけ現実に即したものなのか、という点には前から大きな関心を寄せていました。
2000年竣工の羽根木エコハウスでは、気密性の測定はできましたが断熱性の測定はできませんでした。しかし、2014年竣工のエコ賃貸羽根木テラスBIOでは、気密性の測定に加え、断熱性能(当時はQ値といって、熱損失量を床面積当たりで計算したもの。)の実測も行いました。そして、今回の金山デッキでも、気密性と断熱性の両方の計測を行いました。
写真1は、気密性(C値)を測っているところで、家の空気を強力に外へ排気していくとどのようなペースで、排気量が減っていくか、を測ります。気密性が高いほど、ファンが回っても空気を押し出せなくなっていきます。気密性が低いと、家のどこからか空気がはいってくるので、ファンが排気を楽に続けられるのです。気密性があまりに乏しいと隙間風で寒くなる、ということもありますが、それだけでなく、換気をしていても、家中の空間をくまなく換気できず、換気扇の周りだけが空気が入れ替わり、他は汚れた空気が澱んでしまうという問題がおきます。では金山デッキはと言えば、壁など外気に接する外被の面積1㎡当たりで1.74平方センチに相当する隙間という結果になりました。この数値は、北海道では2.0以下、本州では5.0以下が目標とされ、欧州の先進国では1以下のケースが多いですが、それに照らすと、北海道の目標は十分クリアーしたが、欧州並みとまではいかなかった、と言えましょう。大面積の窓を設けていて窓周りにどうしても寸法の長い隙間ができること、地下の車庫と階段を隔てるドアがエアータイトでないことなどがおそらく影響していると思われます。
住んでみたときの温熱環境のクオリティそしてエネルギー消費量に直結するのが断熱性能です。こちらは写真2のような装置で代表的な天井面、壁面、床面などで、室内温度との差の大きさの変化を時間をかけて測りました。結果、設計値と近い値がそれぞれの箇所で測定されました。家全体のUA値がシミュレーション上0.32W/k・m2となっていたところ、実測値に基づいて再計算したところ、小数点3桁ではこれを少し下回る、高い断熱性であることが示されました。0.32という数値は、法定の推奨の基準値より43%も熱を通しにくいことを意味しています。私の厳寒期での体感とよく一致しました。2014年竣工の羽根木テラスBIOのQ値をUA値に換算すると0.53ですので、これよりも40%熱漏れを防いでいます。
以上のように、現行の設計値の出し方、シミュレーションの計算式は、現実をよく反映していることが分かり、安心をしました。シミュレーションがもっともっと簡便に皆に使ってもらえるものになればさらにいいなあ、とも思った次第です。

写真1 気密性の測定

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写真2 断熱性の測定の様子

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2022年4月7日 金山デッキの太陽光発電、ようやく開始。

国内・地方エネルギー
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4月7日午後3時、屋根上の太陽光発電の電流が蓄電池と家の中に用いられ始めた。建物の概成は12月26日であり、ずいぶんと日が経ってからの発電開始である。そこには事情がある。
概成の時点でも発電はできたが、FIT等による逆潮(配電網への電力の流し込み)についての中部電力の審査が終わっていなかったので、発電は見合わせていた。その後、中電さんからはOKが来て、その書類とともに、今度は関東経産局へFITの許可申請をしようとした。しかし、なんと、令和3年度分のFIT買い上げ料金が確実に適用されると役所側で保証できる審査期間が年度末までには確保できない、という理由で、申請は棚ざらしになってしまった。他にも待たされている国民はたくさんいると聞く。再エネ主力化の大方針にもとる職務懈怠とも結果的には言える上、ロシアへの経済制裁に起因する燃料不足・発電量不足がある中で、既にある発電装置を役立てないのは、大変にもったいない、不思議な話でもある。そこで、いろいろ検討したが、逆潮さえしなければ、将来のFIT適用には問題ないということなので、せめてもの取り組みとして自家消費のための発電に踏み切ることとした。自分の電気代支払いは減るし、貴重な商用電力の消費を抑えて社会の安全に貢献もできる。ただし、自家消費の範囲の発電であるため、用いるPVパネルも蓄電する電池もフル稼働時の能力の半分に絞っているので、残念なことには変わりがない。
写真は、金山デッキの地下室に据え付けられた電力関係機器である。右側の地面に据え付けられている2つの機器が、それぞれ11.5kWh容量のリチュウム・イオン電池(中身の上部は最大電力を探すMPPT装置)で、その上にあって壁に取り付けられている3つの装置はパワコンであって、60Hzの交流を作っている。左の壁には、スマート分電盤があり、ここの各回路の測定値は左隣の情報分電盤(弱電盤)を介して有線光ケーブルで情報を外部に送ることができる。下の小さな2つの機器は、蓄電池の稼働状況などを測定してクラウドに上げ、このシステムの販売元のサーバーとつながっているし、さらに、私の携帯にあるアプリにもつながっている。サーバーからは稼働状況や気象予測を踏まえて充放電の指示が出せるようになっている。少し大きなボックス2つは、買電や売電を自動で切り替えるスイッチボックスである。満充電すれば本来であれば滑らかに売電するし、発電量や放電量を合わせた量よりも消費量が多ければ自動的に買電する。2つあるのは、蓄電池が2つあるためであるが、今は1つしか使っていない。
ゆくゆくは、配電網に再エネ電力が豊富な時には、写真中央のエコキュートをたき上げてお湯のエネルギーに変えてあげたり、逆に、電力が不足し化石燃料が焚かれそうな時は、蓄電池から放電するなどして化石燃料消費を回避したりといった動作ができれば嬉しいな、と思っている。進展については折に触れ、今後も報告しよう。

2022年3月15日 長野でもサラたまちゃんに会えた。水俣話その2

国内・地方自然
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サラ玉ちゃんは、新玉ねぎの商標登録されたもので、熊本県芦北農協がその呼称や栽培方法を指定し管理している。水田裏作として早生種の玉ねぎを出荷しようと昭和35年ごろに栽培が始まり、特産品としてスペシフィケーションを強め、平成6年に商標登録に至った。水俣病を逆手にとって、水俣ゆえの徹底した安全管理を行っている。辛みが少ないので水にさらすなどしないで生で食べられる、というのが名の意味である。 このサラたまちゃんに茅野のスーパーでも会えた。なつかしかったし、安心もした。安心したというのは、近年では、新玉は春の使いとしてブームで、ようやく2月終わり頃に出荷が始まるサラたまちゃんよりもっと前にいろいろな産地の新玉が八百屋に並び、サラたまちゃんが出るころには食傷とは言わないが、陳腐化してしまうからで、それではみすみす市場を失ってしまうのではないかとかねてより心配していたからである。それが遠く離れた茅野でも売られていた。だいぶ前、有名な生産者の方に、もっと速く出荷できないのかと聞いたことがある。その答えは、十分おいしくなるまで育てて出荷したい、ということだった。味で勝負する愚直な戦略で全国の市場を守れているのなら偉いものである。
サラたまちゃんは、緑の長ネギのような葉の部分も一緒に付けて売られているのが特色だ。ここがまた、なかなかおいしい。この部分は今回は、写真のように、細かく刻んで炒めてスパゲッティ用のミートソースのベースにした。話は脱線だが、子供の時に風邪で寝込んでいて、母親から、元気がつくよう何が食べたいか、と聞かれ、マカロニグラタンと答えたことがある。しかし、その時には家には玉ねぎがなかったようで、長ネギを代わりに炒めて具を作ったようだった。しかし、その香りが何か奇妙で、今でも風邪をひくとその匂いが鼻の中でよみがえってくる。玉ねぎの緑の葉は、見た目は紛らわしいけれども、長ネギを炒めたのとは違った味や香りであるが、子供の時のこうした思い出を呼ぶには十分な力があった。
脱線ついでにもう一つ。八ヶ岳山麓標高千メーターの金山デッキでは、スパゲッティにはどうしても手間を掛けざるを得ないのである。
それはきれいな景色に味が負けないように腕を振るっているからではない。実は気圧が低くて、沸騰温度が低く、茹で上がるにも時間が余分に掛かるのである。世田谷では、外装に書いてある標準茹で時間マイナス1分くらいで出来上がりにしていたが、ここ金山では、それでは超アルデンテ、博多ラーメンで言えば、バリ固と針金の間くらいにしかならない。放射温度計は若干低く温度を計測するが、その表示では沸騰温度は95.4℃であった。5%くらい熱量が足りないのである。広い交易とローカルな特色を、脱炭素時代にどう両立させるのか、考えさせられたサラたまちゃんのミートソーススパッゲティであった。
そう言えば、本場、ボローニヤのリストランテで頼んでみたら、しばらくして、ボロネーゼ・ソースは、平麺のタリアテッレで食べてくれ、と注文を取り直されてしまったことがある。遠くの発祥の地と違う文化の土地で部品、部材をどう組み合わせるのか、そこにもインスパイアの妙味がありそうだ。八ヶ岳の向こう側、長門町には地産の韃靼そば100%で作ったスパゲッティのミートソースがあるそうだ。いつかこれを賞味し、ミートソース話その2として、感想をレポートしてみたい。

2022年2月21日 フランスの環境誌に拙著が紹介された。

国際・海外エネルギーエコハウス
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水素を中止とした欧州の環境技術情報を扱う季刊の雑誌「ハイドロジェニウム」2022年1-3月号(仏語)に、拙著「エコなお家が横につながる」のサワリが紹介された。拙宅での、一軒での取り組みの成果を踏まえ、次のステップとして、電気ユーザーの間の再生可能エネルギーの融通が必要と述べている、と内容を紹介した上で、この本がフランス語でも読まれれば、市民一人ひとりの自分事としてエネルギーの移行が理解されるのに、と結んでいる。
拙著の紹介者は、フランスを本拠にコンサルタント会社を営む桜井玲子氏。この雑誌では同時に、先端研兼坦の河野龍興先生(東北大特任教授)のグリーン水素の導入を目指す取り組みも、詳細にインタビューして掲載してくださった。
私のようなフレンチスクールの人間にとって、環境分野で日仏交流が進むのはうれしいことだ。フランスから見た日本は、投資元としては、非ユーロ圏では、イギリス、中国に次ぐ大投資国である。日本から見るとしかし、対欧州投資の1割程度を占める投資先に過ぎずまだまだ未開拓とも言える。拙著が仏語に訳される僥倖があれば、優秀な環境技術を持つ仏企業とのコンタクトのチャンスが増えるかもしれない。
いやいや、でも自助努力しなくっちゃ、とも思う。我が羽根木エコハウスは、金山デッキの誕生のお陰で居住人数が0.5人分減ってデータの連続性がなくなった。今年の夢として、この際、2000年以来のデータを集大成して査読論文化し、国際ジャーナルに英語で投稿しようと考えている。

2022年1月11日 スーパーエコハウスの金山デッキが概成

国内・地方エネルギーエコハウス

数年前から立地場所を物色し、一昨年の秋に土地を購入、昨年春に設計をして、7月に地鎮祭を行い、8月に着工した我がスーパーエコハウス(金山デッキ)が、年末ギリギリ、12月27日に概成して、鍵の引き渡しを受けた。本来はもっと早く着工し、11月半ばには竣工の予定だったが、世界で盛んになったポストコロナでの地方移転への動きが遠因となった材木不足(ウッドショック)やこれまたコロナの影響による半導体不足で、部材が手当てできなかったため、工事が遅れてしまっていた。部材不足の一例をあげれば、機器別に電力消費量を自動計測するスマート分電盤が未だ入手できていず、緊急避難として、従来型の分電盤を据え付けてしのいでいる。したがって完工にはまだまだ時間がかかりそうだ。元々の狙いの、電力の融通のための需要の上げ下げコントロールの可能性調査に取り掛かるのは、さらに先になりそうだ。
鍵を託された12月27日から1月10日まで、ちょうど半月、備え付けた機器の初期化や操作の習熟、そして、厳寒期の電力消費の総量の把握(機器ごとの把握は、前述の事情で残念ながらできない)や最も不利な季節での住み心地(室内気温)の評価のために現地で過ごした。初期設定をして機器を試用する、その過程だけでも相当な時間が要った(それ以前に、羽根木の本宅や駒場から移した書籍の収納にも、2日半を要した。写真は、壁面全部を使った書棚)。半月の電力総消費量や気温のデータは取れたが、その評価などは別稿に譲ろう。
もう一つの写真は、金山デッキ越しの八ヶ岳の稜線。発電量を稼ぐため、何の遮蔽物もない立地を選んだので、ものすごい天空率、したがって大景観を誇れる場所でもある。脱炭素に貢献するべく、ここでの取り組みを、いろいろな媒体で紹介、共有していくつもりである。ご笑覧いただけると幸いである。

ようやく収納がなった金山デッキ室内

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  北側からの金山デッキ

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2021年12月15日 映画MINAMATAを見て、経営者の判断を考えた。

経済公害
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(映画宣伝のポスターより転載)

早稲田大学政治経済学部の有村先生が主宰するカーボンプライシングの遠隔シンポジウムに参加しました(11月26日)。炭素税などを実装することを巡って社会的に論点になる事項を探り、学者の果たせる役割を論ずるものです。私からは、炭素税を実装していく場合に訴え得る利点や、利点を増やす算段について提案させていただきました。例えば、既存のエネルギー課税の炭素税化などです。
理論的な研究からは炭素税などのカーボンプライシングの利点は明々白々です。しかし、現実の低い炭素価格の下でも経済合理的でないほどに非効率な既存生産設備が温存されてきたのが日本の現実なのです。それは、日本の生産設備を模したモデルを作り、炭素価格の想定の下での経済合理的な設備更新をシミュレーションする、AIMモデルを開発した故・森田恒幸氏の研究を横で見ていて感じた私の感想です。脱炭素目標が定まっても、案の定、経済界はカーボンプライシングへ小田原評定です(12月10日の与党税制改正大綱)。
日本の会社は、合理的なことであっても新しい方針決定には臆病なのです。
改めてそう思ったのは、ようやく日本公開がなった映画MINAMATAを見たからです。
ジョニー・デップが写真家のユージン・スミスを演じたこの作品は、現実とフィクションをうまいこと混ぜて、わくわくと見られる映画に仕立てたものです。例えば、フィクションに違いないと思ったユージン・スミス氏が日本のフジフィルム社のテレビCMに出演する話は、なんと実話で、11月一杯六本木の同社のギャラリーで開かれていたスミス展の特別出品で本物の放映コマーシャルを見て、確認できました。脚色が加えられていた所で言えば、スミス氏などがチッソの病院に潜入して、有名な、ネコへの工場排水暴露実験の証拠を入手する007ばりの活躍などがありますし、有機水銀を環境中に排出していたチッソ(株)の当時の社長が、スミス氏の口封じ(カメラ封じ)のために説得を試み、汚染物質はたかだかppm(百万分の1)のオーダーだと言う実際のくだりが、スミス氏買収の文脈の中で登場するなど、分かりやすくするデフォルメが施されているところがあります。しかし、この映画は、単純な勧善懲悪の作品ではありません。チッソの経営者は、汚染を知りつつ排出を続けるものの、しかし、水俣病患者を活写したスミス氏の写真がライフ誌に載ると、もはや隠蔽は不可能と判断し、患者の補償を部下に命ずるのです(ここもデフォルメ部分で、写真の力が琴線に触れたプロットでしょう)。
私は、この映画を今日の経営者の人にこそ見てもらいたいな、と思いました。それは経営者の判断の大切さを示しているからです。環境のような新参者の課題へは真摯に向き合わないで時間稼ぎして経営判断を避けるのでは、そつのないサラリーマンでありえても、経営者の資格はないのです。これは一般論ではありません。経営者の能力が、脱炭素で、今まさに問われているので、私は質したいのです。変えない、というのは、本当にあなたの判断なのですか?何が根拠なのですか?と。

2021年12月7日 今年2冊目、3冊目の本を上梓しました。

エネルギー経済
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既にこの折々のニュースでも紹介しました「エコなお家が横につながる」は、家庭という消費端からボトムアップで世の中を長続きするものに変えていく算段を論じた拙著で、いわば私の自宅での体験などから発信したものです。それとは全く逆の発想、すなわち、トップダウンの視点から、同じく長続きする経済の姿を論じた本も出版できました。これは、「カーボンニュートラルの経済学」というタイトルで、日本経済研究センターの編、日経BP社から公刊されたものです。
この本は、おそれ多くも、同センター理事長の岩田一政先生がセカンドオーサーに回って、ファーストオーサーを私に譲ってくださった本ですが、実際は、同センターの経済シミュレーション能力を駆使した、センター著作の本と言うべきでしょう。特筆すべきは、将来の、再生可能エネルギーや情報技術を多用する企業間エコシステムをシミュレーションの中で再現するよう、投入産出のOD自体の将来予測をして、それをモデルに組み込んでいる点です。既存の投入産出関係の観察結果をモデルに入れたのでは、環境への投資が増えても新しい産業は起こらずマクロ経済はシュリンクするだけです。しかし、将来の企業間エコシステムが変わることを見越していれば、未来の日本経済の姿は全く変わります。DXと脱炭素を進めてこそ、人口減の日本経済がプラス成長できる姿が描けるのです。
そこで重要になるのは、個々の企業の行動です。環境改善などをしながら稼ぐビジネスモデルが個社レベルで当たり前にならなければ、プラス成長は見込めません。個社の立場から見れば、自分が将来生きることになる生態系の中で自分の利益も出していく姿への素早い転換が発展の鍵です。こうした観点で、「Green Business-環境を良くして稼ぐ。その発想とスキル」という本を木楽舎から12月に上梓しました。この分野での投資活動に通暁する吉高まりさんがファーストオーサーで、論の運びがとても実践的なものです。東大駒場でも、このコンビで、おそらく22年度の冬学期に講義ができそうな気配です。是非、本を読むなり、授業に参加するなりして、実現すべきエコシステムを支えるアクターにすばやく変身してください。

2021年11月4日 縄文の環境と暮らし

国内・地方自然

長野県富士見町の井戸尻考古館を訪れ、館長の小松隆史さんのお話を聞き、展示品の解説を受けました。今から5000年くらい前の縄文中期、当地が栄えていた頃の人々の生活と自然環境との関係に思いを馳せました。
この地域で縄文文化が栄えたのは、縄文海進のピークよりは少し後の時代。初期から人はいたようですが、中期には大いに発展して、ここ独自の文化を花咲かせたそうです。しかし、縄文後期から、おそらく寒冷化で、居住の適地でなくなり、海進もなくなったので、浜辺の地域へと繁栄の拠点は移ったそうです。八ヶ岳山麓には、その後の弥生人の痕跡もほとんどなく、次に人が登場するのは平安時代の官営の牧場までかかったそうで、太古の時代には、人の生活がいかに自然に依存していたかを感じました。
この栄えた時代の、当地の特徴はあきらかに耕作用と思われる各種の石鍬や刈り取り鎌のようなもの(石庖丁)が大量に出ることです。特に片手用の鍬は、現代の焼き畑民に共通する道具(写真1参照)なので、おそらく焼き畑耕作をしていたのではないかということです。作物が何だったかについては、酸性土壌であるため、炭化物を除いて人骨、木製品、布などが全然保存されていないので知る由がないそうですが、おそらく、豆類や雑穀があったのではないかということです。もう一つ重要なことは、縄文時代でも既に地域間の交易が盛んであった証拠がたくさん残されていることです。縄文人は単に自然に依存するだけでなく、生活をより良くするよう人智を働かせていたわけです。
人智の点で興味深いのは縄文人の精神世界です。彼ら彼女らは、作業の能率性よりも、何かシンボリックなことに情熱を傾けていたようで、有名な火焔型土器なども、実用性はあるにしても、とても使いづらいものが盛んに作られています。そうした縄文人の精神世界を強く反映しているのは、特に土偶です。これは、例えば、山梨県の釈迦堂遺跡でいくらでも出るのですが、あきらかに断片が一致しないほどにばらまかれているのです。この遺跡では1116点の土偶の破片が出土し、接合できたのはたった5例だったそうです。ばらばらにされて土地に還される、これは、殺された女神の身体部分から食物が再生する世界共通の神話を表現しているのではないか、と小松館長は思っていらっしゃいました。そして、その様を再現した写真を撮って展示していました(写真2参照)。縄文時代には、矢で満身創痍になった人骨などは出てきませんので、平和だったことはまちがいなさそうです。自然の力が圧倒的である以上、人の争いで利益を確保するよりは、自然を尊び、その恵みに祈りを捧げることで豊かな暮らしを守っていたんだな、と感じました。

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現代の手鍬と縄文の石鍬の再現品
画像をクリックすると大きな画像が表示されます

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写真2
破壊された土偶から作物が再生する再現イメージ
 

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2021年10月15日、16日 自然再生のためのNGOの貢献

国内・地方自然

富士フィルムが信託するグリーンファンドの活用を監督する運営委員会の依頼で北海道帯広を訪れました。お目当ては、エゾリスの会の活動であって、外来植物の退治などをしながら自然の植生を再生しようというものであって、このファンドが支援しているからです。
現場を訪れて見ると、東京で想像していたのとは大違いでした。それは、北海道の極相林と言えばトドマツなどの針葉樹かなと思っていたら、この帯広辺りは火山灰地で、なんとカシワが自然植生になっているのです。そうしたカシワ林が明治期に開発されて農地になっていたものが、帯広市の計画で、都市域のスプロール化を防ぐグリーンベルトの建設のために買い上げられて公有地化され、緑地に戻されることになったのが背景です。現地で植樹祭などを市が開催し、市民の善意も集めて植樹が進み、加えて、知識を持つNGOが自然林へと進む過程を管理しているのですが、そうしたNGOがエゾリスの会であって、五葉松などリスが種子を運んでくる実生を間引いたり、セイタカアワダチソウのような侵略的な外来種の成育を、表土の天地返しで抑制したりといった地道な活動が行われていました。その結果、いかにも在来の自然林といった風情を相当に醸すものになっていて印象的でした。ちなみに、お手本となるような天然のカシワ林も近くに小面積残っていて、そこに学ぶことにより恣意的な林づくりにならないよう注意が払われていたことにも好感が持てました。
自然は、知恵と労力があれば良質なものとして再生できるのだな、と感銘を受けた次第です。
実は、前日の15日は、釧路で、大規模な太陽光発電所(実装は25MW)の環境管理を見学し、阿寒農協を訪れ、配電線を借用する形のマイクログリッドの構想を聞かせていただいたりした(これは別稿で報告)のですが、余った時間に、釧路川の支流の一つを訪れました。そこをイトウやサケ、マスの産卵ができる川に戻すべく、小さな堰堤の堤高さの削り下げなど、既存河川工作物のインパクトを低下させる事業が、なんとNGOの力で行われているのです。こちらも、技術もさることながら、河川管理者や水利権者との利害調整といった人間界の知恵も大いに発揮されていて、なるほどと得心させられた次第です。
NGOフレーフレーの心境になった北海道見学でした。

「お手本」となる天然のカシワ林

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釧路川支流でのサケマス類の遡上容易化の様子

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2021年8月10日、9月28日 中心業務街区・大丸有のエリア・エネマネに向けた検討

国内・地方エネルギールール
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東京の都心のさらに都心と言えば、大手町、丸の内、有楽町の界隈、いわゆる大丸有地区でしょう。この地区の広さは1.2平方キロ、就業人口は28万人で、欧米のやはり中心中の中心業務地区であるウォール街(1.5平方キロ、31万人)と比べるとやや小ぶり、ロンドンのシティの2.9平方キロ、54万人と比べると約半分になります。しかし、中核オフィス地区での脱炭素の模範を示さなければならない点では、これら3地区には違いがありません。
そこで、この地区のビルオーナーなど地権者を中心に、エネルギー供給事業者、国、都や千代田区などが参加して、2030年のカーボン・ハーフ、50年の脱炭素に向けた検討が始めました。まずは、有識者を集めた会議で、本年度内に、たたき台となるビジョン案を作ることとなったのです。写真は、その会合の様子。国際大学副学長の橘川先生、社会科学研究機構代表の高橋毅氏、早稲田大の田辺先生、千葉大の村木先生という具合に、都市環境対策の高名な専門家が集まっていて、私が、議事の進行・整理をする座長役を仰せつかっています。とてもエキサイティングな会合になっています。
大丸有地区のCO2排出量(SCOPE2で計算)は年間約67万t-CO2で、エネルギー最終需要の内訳は、動力や電灯用の電力が約3分の2、主に冷熱の熱利用が3分の1になっています。その他、水の消費は約589万㎥、ごみの排出は6.2万トン(以上、2019年実績)です。高層ビルが連なる中心街区では、エネルギーを創る余地は乏しいので、出来る限りの省エネをして、最終的には、残されたエネルギー需要に対して、再生可能エネルギー起源の電力やカーボンフリー化された燃料を充てることになります。ここで、ポイントは、個々のテナントやビルオーナーができる省エネに加えて、ビルを超えた地区のスケールでどのような追加的な省エネが行えるかにあるのです。例えば、グリッドに再生可能エネルギー起源の電力が豊富にある時は、積極的に電力を使うなり貯め込み、反対の時には、省エネを強化したり、地区内でエネルギーを融通し合ったり、といった制御をすることでCO2量を減らすことができるのです。そのための仕掛けである丸の内熱供給会社なども既に活動をしています。
この有識者の会合では、このような地区レベルの環境取り組みを「エリア・エネルギー・マネッジメント」名付けて、そのハード在り方だけでなく、ソフトなルール、すなわち意思決定・運営あるいは収益の在り方も検討していくことになっています。今後さらに3回の会合を重ねて、脱炭素以外の社会的な価値の実現、SCOPE3で影響力を行使して広く日本や国際社会を改革していく方策なども検討してことになっていて、今後の議論が大いに楽しみです。

2021年8月30日 環境ビジネスの基礎、自然ガイド

国内・地方自然
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小林は、環境を良くして稼ぐ「エコビジネス」がどんどん盛んになるべきだと思って、いろいろなビジネスモデルの観察を続けています。中でも、最も基礎的なものとして興味があるのが自然ガイドです。北は知床、本州の真ん中では上高地、南は小笠原父島といった各所で、その土地土地の自然のご案内をいただいています。中には、土地の自然資源と言えば澄んだ空気と暗い夜空だけで、見る物と言えば、地球外の星という星空ガイドというビジネスもあります。これにも何回か参加しました。季節や解説でちゃんと差別化されていて、対象は同じであっても決して飽きないものです。今年の夏は、行き慣れた八ヶ岳で蝶や渓流などの案内をしてもらいました。
八ヶ岳では、5年ほど前に、ガイドさんが10人ほどの団体を引き連れて、東側から天狗岳を越えて西側へと、5つの温泉を巡る登山を兼ねた自然探勝に参加しました。今回は主に生物の観察がテーマでした。
今回、案内をして下さったのは原村でペンションを経営する山本さん。東京は浅草生まれの江戸っ子ですが、山での生活が好きで、居抜きで売りに出ていたペンションを買い受けて、ペンション経営傍らの山暮らしを始めたそうです。
今年の8月は長雨が続いていましたが、30日はお陰様で好天で、朝は麦草峠を越えた先の黒曜石の露頭を訪問しました。ここは、ブラタモリでその前の週に放映された冷山近辺の縄文人の採掘跡とは違いますが、辺り一面に、透明感のあるガラスのような黒曜石がちらばっていました。ここを訪れたのは、地学的興味もありましたものの、こうしたガレ場には、蝶が日向ぼっこしに集まってくるからなのです。地面に手を当てると、石は太陽光で空気よりもずっと暖かくなっているのが分かります。ここには、特殊なハンミョウもたくさんいました。次に、諏訪側の斜面に戻り、いくつかの渓流を横に越しながら、沢によって、アマゴだったり、イワナだったり、何もいなかったりといった違いを教えてもらいながら、いろいろな蝶を見て回りました。主に草原性の種です。中でも圧巻だったのは、写真にあるアサギマダラです。写真には、2頭(分かりますか?)しか写っていませんが、20頭位の集団でした。
このアサギマダラが冬でも発生できるのは、南西諸島などです。しかしそこに留まるのではなく、春から北上を始め、7月頃には、本州の山地帯にまで到着します。そして、そこで世代を更新し、秋にはまた南西諸島へと1000キロを超える渡りの旅をするのです。その渡りに備えて、吸蜜している花は、写真のイケマです。ガガイモ科の宿根のつる草で、白い手まりのような集合花を咲かせてきれいですが、それだけでなく、長旅を可能にする特別の栄養があるのでしょう。蜜を吸うのに夢中で、ごく近くで携帯のカメラで写真を撮っても動じません。まったく同じような渡りの生活をするスジグロカバマダラという蝶が北米にいます。蝶のような儚い紙のような生き物が、わざわざ苦労をするのはなぜだろうと不思議になります。
午後には里山でオオムラサキの産卵のための飛翔や細流に行ってオニヤンマの縄張り飛翔を見たりして一日を過ごしました。
実は八ヶ岳は、登山ガイドの発祥の地であるようです。今度は、新雪期か残雪期に、登山のガイドさんを雇って、登山ガイドというビジネスのご苦労や課題をお聞きしながら、もう少し標高の高い所の自然探訪をしてみようと考えています。
味が分かるお客がいなければ、おいしいレストランや割烹は成り立ちません。環境も同じです。自然の機微が分かる人が増えれば増えるほど、環境を守る仕事に資金が投じられるようになります。その意味で、自然ガイドは、その基礎を作る大事な仕事だと思います。

2021年7月14日、30日 大地の恵み・温泉資源の公的な管理と利用

国内・地方エネルギー資源・ごみ
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7月14日、諏訪市水道局温泉係が所有管理する、七ツ釜配湯センターを見学しました。また、30日には水道局庁舎を訪れ、いろいろなデータを頂戴し意見交換をしました。
地図のように、諏訪市街のほとんどが温泉水の配湯システムでカバーされています。この配湯システムが、温泉業の組合などの所有管理でなく、公設公営となっているものは、おそらく、ここ諏訪市と隣の下諏訪町だけで、全国でも他に例のないものではないかとのことです。
この公営システムの由来は、昭和の高度成長期、諏訪の各家庭や旅館などは、自分の地所を掘削して自由に温泉を使っていましたが、どんどんと競って深い掘削になり、浅い泉源は枯渇して住民間の争いに発展するようになって、市が、公営して泉源を守り、公平にお湯を使うシステムづくりをすることとなったことにあります。昭和60年代に今日見る姿になったのです。
この公営システムには、8つの源泉からお湯が供給されていて、見学した七つ釜のセンターは、7つある配湯センターの中でも最大で、毎分3500ℓほどの供給を行っている由です。ここには、3つの源泉から温泉水が供給されていて、その源泉温度は、90℃から50℃で、これをミックスして泉質や温度を調整し(源泉で熱すぎるものは冷ますために現場で水道水を加えている)、60℃の温泉として圧送し、ユーザー端には、およそ50℃で給湯されるように管径や圧力などが調整されているのです。
このシステムは、行きっきりの配湯システムで、使用端にも貯湯タンクがあって、そこにお湯が入っていくにつれて、配湯センターにあるバッファーとなる大きな貯湯槽の湯面が下がり、その信号を受けて、源泉の汲み上げポンプの稼働状況が高まりお湯が供給されていく仕組みとなっていて、無駄な、温泉かけ流しなどはなくなると期待されます。実際、この統合的な泉源管理システムのお陰で、源泉の資源の枯渇問題は回避されたとのことです。
しかし、問題もあります。折角のシステムであるにもかかわらず温泉消費量が衰退しているのだそうです。ピークの契約件数が2800件であったところ、現在は、1000件減の、1800件になっている由です。これは、家庭での温泉使用の魅力が低下し、家の建て替えなどに際して、給湯の契約を更新しなくなる傾向がある、のが主な原因と聞きました。ここの温泉はさほどの硫黄分を含むものでないが、それでも家電の痛みが速くなるといった指摘もあるようでした。
私(小林)としては、温泉はもっと使えないかな、と思うのです。自然の恵みの温泉熱によるCO2削減効果や温泉熱の給湯以外への利用拡大などにつき引き続き勉強したいと思っています。

2021年7月26日 鹿肉を食べてよいとするご神符を額装した

国内・地方自然資源・ごみ
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最近、足しげく諏訪・茅野地域を訪れ、そこでの環境取り組みを見学させてもらっています。茅野市の集落部分の山方向へ向けて端となる標高1000mの位置に、年内にも、自給をはるかに超えてエネルギーを生産する次世代のエコハウス、VPP対応可能な住宅を建築しようと考えていて、この土地の環境をよく理解したいと思っているからですが。そうして勉強すると、この地域の環境取り組みにはとても学ぶべきものが多く、不思議な感慨があります。
今回は、諏訪大社の発行する、鹿の間引きとジビエ肉の賞味を人々に許すご神符があることを教えてもらったので、入手し、写真のように、額装しました。次世代エコハウスの室内に掲出するつもりです。
鹿の間引きは現代の事ではなく、江戸時代の話です。仏教の教えの下、殺生が禁じられて、畑が鹿に荒らされて冬を越すにも難儀した氏子たちが諏訪大社に願い出て、発給されるようになったとのことです。前述の次世代エコハウス建築のための地鎮祭を執行して下さった竹埜宮司さんから紹介いただいたのですが、このお札が貼ってあれば、寺社奉行も取り締まれなかったということです。
八ヶ岳山麓でも、ご多聞に漏れず、鹿の頭数は増えている由で、食害が問題になっています。私は、環境省の現役行政官だった時に、動物保護法に、増えすぎた動物個体群を、神ならぬ人間が頭数調整のために介入する、との規定を盛り込む改正を担当しました。国会の可決を貰うのにえらく難儀したことを覚えています。そして、この法改正はあったものの、事態はさほど改善されていません。もう一歩の介入が求められていますが、そうした時に、この諏訪大社のご神符に巡り合ったのに不思議なご縁を感じます。
八ヶ岳山麓には有名なジビエ店もちらほらあります。単なる間引きでなくお肉をいただくことで、個体群調整が少しでもハッピーなものに近づくよう工夫しなくては、と思いました。

2021年6月18日,19日 仙台近郊富谷市で再エネ電気使いの新しい試みを見学しました。

国内・地方エネルギーエコハウス

写真1

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コロナ禍をかなり克服した宮城県へ行きました。お目当ては、車載だった中古リチウム電池の家庭でのリユース、そして、PV電気による水素の電解装置から生まれた水素をどう使うかの新工夫として、ディーゼル発電機で廃食用油と混焼するアイディアです。
中古車載電池のリユースは、北州ハウジングのエコ・モデルハウスを実験場にしていました。同社は、木材を多く使った高性能注文住宅の建築で商売をしていますが、合板が初めて市場に登場してきたころから建築に取り入れるパイオニア役を果たした会社で、進取の気性に富んでいるようです。既に、新品の蓄電池を組み込んだ発蓄電ハウスの仕組みを発売しています。ここで、中古品の再利用に取り組むのは東北大学の田路和幸名誉教授。再利用される電池は、ホンダのハイブリッド車(HV)に使われていた設計容量850Whで、実質的に使える容量が500Whのリチウムイオン電池を2台セットにしたシステム(写真1)。この電池は、容量が小さいことと引き換えに応答特性がよいのが特徴です。応答特性が良いため、大電力消費家電が複数同時に動くといった状況に追従できます。電池に組み合わされていたインバーターや高電圧での電磁リレーなども、自動車用に丈夫にできている上、新品を調達したら極めて高価格になるので、積極的にリユースしているそうです。太陽光発電が順調な時にはまずは満充電まで蓄電する動作や、系統がダウンした時には、滑らかに家庭内の回路に対して放電する動作などを見せてもらいました。
これから極めて多くのHV車が廃車になることを考えると、まだまだ活躍できるリチウムイオン電池を家庭で再登板させる経済的な仕組みを是非とも具体化して、再エネの普及に力を貸して欲しいと思いました。

写真2

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また、新しい試みとしては、燃料電池よりも初期投資が安価で同じくカーボンフリーの電気を作ることのできる、バイオマス燃料と水素を混焼させるディーゼル発電装置を見学しました。
生協物流センターの上にあるPVパネル(80kW)からの電流を能力50kWの水電解装置に流して水素を製造し、水素吸蔵合金に格納して他所にある燃料電池で使う実証事業がかねて行われていましたが、その発展の事業です。案内して下さったのは、東北大と東大先端研兼坦の河野龍興教授。丸紅、日立などの共同の事業で、発電装置はデンヨー製。装置外観は写真2のとおりで、出力は40kWと結構な発電力です。燃焼時の出力の変化を見るオシロスコープを見せていただきましたが、水素の比率が高まっていくにつれ、燃料全体の燃焼がよくなり、波形がシャープに高まっていくことが確認できました。ディーゼル発電機は燃料の好き嫌いが余りない優れものですが、それでも水素の混焼が効率を改善することを見て、電気システムのBCP対応としてはもちろん、マイクログリッドの周波数維持のイナーシャとしての常時使用もありかな、とも思えました。水素の利用を身近にする仕掛けとして経済性が高く実用的だと感じた次第です。
今回の見学では、併せて富谷市役所を訪問し、若生市長さん他と面談しましたが、こうした地域の取り組みを踏まえて、脱炭素に向けてさらに踏み出す意欲一杯で頼もしい限りでした。

2021年6月5日 久しぶりの単著で、エコなお家が横につながることを訴えました。

エコハウスエネルギー
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環境の日に合わせて、「エコなお家が横につながる」という140頁ほどの小著を上梓しました。海象社のブックレットの、これから始まる新シリーズ「エネルギー使いの主人公になる」の第1号です。
この本では、前半は、拙宅羽根木エコハウスでの21年間の実践を踏まえた節電などのコツや効果を紹介し、後半では、私が訪問した内外の取り組み、とりわけ配電網のレベルで再生可能エネルギー起源の電気をできるかぎり受け入れるために努力をしているいろいろな事例を見学させていただき実感したことを報告しています。そして、最後に、ユーザー本位のエネルギー政策を実現して脱炭素を果たすことに向けいくつか提案をさせてもらいました。具体的には、再生可能エネルギーを生活者が融通し合えるようにすることを訴えました。エネルギー自立ハウスをたくさん作るより効率的だと思うのです。
生活者の手探りのエネルギー読本ですが、私としては、エネルギー専門の学者さんに多い、既存の電力システム全体の擁護を前提に、その変更をコストとしてとらえてお話しをする方々への批判、そして、頼みの環境派の学者さんでも、「ではの守」よろしく、外国の優良な取り組みの紹介に終始する、上から目線の方が多いことへの残念感が強くて、暮らしからのボトムアップの発想を大事にして執筆してみました。
ややもすれば普通の市民は、エネルギー・スルーです。本書を読んでいただき、エネルギー環境政策が市民の手の届くものになることを期待しています。お力を貸してください。

2021年5月18日 工場が守る草原の蝶

自然国内・地方まちづくり
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今度も長野県上小地域で環境取り組みを見学させてもらいました。水田の上に架台を組んで発電するソーラーシェアリング、そして2MWという比較的小規模な、それゆえ地域社会に密着したバイオマス発電所(信州ウッドパワー社)などです。これらは、他の機会に報告ができましょうから、ここでは、また別の蝶に登場してもらいましょう。
この蝶はオオルリシジミと言って、長野県では天然記念物に指定され、採集には罰則が適用されるなど厳重に保護されています。写真のように、シジミチョウの中では大型の(東京でも見られるヤマトシジミを3倍位大きくしたサイズ)きれいな青色の羽を持つ蝶です。食草はクララと言い、害虫除けになるほど苦い(したがってきっと有毒な成分を含んだ)マメ科の植物です(蝶がとまっているのがクララ)。
昔は水田の畔や、飼っている牛やヤギなどが嫌って食べ残すので草原にも一杯あった植物ですが、近年はそうした、のどかな環境がなくなって、ほとんど絶滅状態でした。しかし、私が訪れた東御市の千曲川の南岸地帯では、小学校の生徒たちが累代飼育で種を存続させ、また、地域の工場(シチズンファインデバイス(株))が敷地内の草地環境をその蝶の棲息にふさわしいよう整えて協力し、ちゃんと野外にこの蝶が自然に飛んでいるような状態を復元することができました。
工場でお話を聞きましたが、食草を刈り取らないような除草作業、そして食草を食べてしまう蛾の幼虫の駆除などを工場が担っているそうです。そして、一年に一回の発生時期には、職員の家族の皆さん、そして地域の方々も交えて観察会をするそうです。
工場に勤務する人たちの自然共生の意識が高まり、きっと本業のイノベーションにも役立つのではないかと嬉しく思いました。

2021年4月12日 春の女神ヒメギフチョウを久しぶりに堪能

自然国内・地方まちづくり

私の勉強スタイルは、論文読みではなく、現場主義。各地にお邪魔して当事者から貴重な教訓を教えてもらうのが常です。
今回は、コロナの蔓延防止重点措置の直前にセットした長野県の訪問を報告します。この2泊3日の現地見学では、共通のテーマは、「協力」といったところだったと言えます。
まず、軽井沢で、当地にたくさんある社有の保養所の管理を一括請け負う企業と、当地の自然保護のNPOとの仲を取り持つ会合をしました。そして、翌日は、東御市でヒメギフチョウの生息地を見学し、上田市に回って、相乗り君という、屋根オーナーと市民が一緒に出資をしてPVパネルを増やしていく活動を見ました。さらに、岡谷に行って、現地の電気やIT関係の企業のお話を聞き、そして、エプソンを訪れ、RE100へ向けて地域ぐるみで取り組む発想を聞かせてもらいました。とても実りある一連の現地訪問でした。
これらのうち、エネルギー分野での協力については別の媒体で深堀りする機会もありますから、ヒメギフチョウの話をここでは特に取り上げます。
ヒメギフチョウは、蝶の中でも古代の雰囲気を持つ仲間です。食草は、ウマノスズクサ科のウスバサイシン(徳川家の紋章のフタバアオイという植物に色が濃いだけで、よく似ています。)。一年のほとんどを蛹で過ごし、親になるのは、桜と同時の年に一回です。写真のように、カタクリやスミレの花を訪れます。きれいでしょ。
私のようなエンバイロンメンタリストから見ると、こうじゃなきゃいけない一幅の絵のように感じます。まだ芽吹きも乏しく色のない里山で舞う姿から、春の女神と言われています(神奈川県から西の方には、ギフチョウというごく近縁のもう少し大きな種がいます。)。
この蝶の食草や吸蜜する花は、実は、薪炭林のようなちゃんと林床に植物が生える場所にあるのです。したがって、ヒメギフチョウやギフチョウは、人手のいつも加わる、二次的自然の象徴です。
人手が離れ、木がどんどん大きくなって林床が暗くなり過ぎると滅びてしまいます。長野県でも、生き残っている場所は、120か所程度になってしまったということです。この東御市の産地では、幸い、近くの人たちが木を切り開き、昔のような林床が維持されています(もう一つの写真は、蝶が訪れている花の周りの様子です。)。自然は、放置していても構わない物ばかりではできていないのです。人為はいけない、と思うかもしれませんが、肉体労働する人間だって自然の立派な一部だと私は思います。
地元の方々のお陰で、昔ながらの、春らしい春を堪能してきたことを報告します。

小林光・研究顧問のレポート
小林光・研究顧問のレポート

2021年3月18日 太平洋を越えたグリーンビジネスマッチング

まちづくり国際・海外国内・地方
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3月18日の朝、太平洋を越えた遠隔ビジネスマッチングの会に参加しました。オークランド市営の産業振興協会のようなところが主催をし、多くのアメリカ、カナダの企業が参加し、日本側は、自治体では世田谷区、札幌市、神戸市などが、また、企業では、楽天、川崎重工のような大企業から、パテントを取ったシーズを持つ起業家などまでが参加しました。毎年1回やっているようですが、今年は、ニーズが高いということで、グリーンビジネスがテーマでした。
メインの行事は、参加100社ほどが、機械的にシャフルされる3回の分科会で、2分間のピッチトークをするものです。私は、世田谷区の環境審議会会長として、冒頭の日本側からのキーノートスピーチ役でした。日本の温暖化対策の構造と、強みと弱みをしゃべりました。発言は6分と短いので、別に、ペーパーをお配りしました。
2時間ほどのマッチングを最後まで見ましたが、アメリカ企業側では、日本の文脈でもなるほどと思うような、良さげな技術を持つ会社がたくさんプレゼンをしていました。オークランドは、トランプさんにいじめられた都市ですが、そうしたいことへの恨みつらみや退歩もなく、何事もなかったかのように、自社のグリーンビジネスをプレゼンする姿に大いに元気づけられました。アメリカの草の根はしっかりしていますね。

2021年3月4日 スマートグリッドEXPO

国内・地方エネルギー経済
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再生可能エネルギー関係の展示商談会に行ってきました。3月3日から5日に、東京ビッグサイトで開かれていた「スマートグリッドEXPO」などスマートエネルギーWeek2021です。感想ですが、コロナ禍にもかかわらず、外国の方も含めて、極めて多数の来場者があり、昨年とは変わって、開いていないブースは気がつきませんで、盛況だったと言えましょう。もちろん、担当者が一人いて、展示はあるけど質疑応答は遠隔でといった技術革新もありましたが、コロナを克服しながら展示会を開くノウハウも進化したかなと思いました。
もう一つ気が付いたのは、国際色が高まったことです。中国系の企業が大きなブースを構え、その展示も洗練されていて、安定経営の軌道に載ったんだな、と見て取れます。また、欧州系の企業もプレゼンスを強めています。ちなみに、写真は、ドイツを本拠地に、世界のパワコン市場の4割を占めるという老舗SMA社のブース。日本仕様で、蓄電システムを開発したスマートソーラー社と共同展示していました。日本発の技術が、井の中の蛙、ずるずると出番を得られず世界を席巻できずになってしまったのは残念ですが、この事実に、日本の会社も目覚めて欲しいと思いました。でもまだチャンスがありましょう。市場は日本だけではありません。頑張りましょう!

2021年3月4日 環境ビジネス興隆のカギは目利き能力

国内・地方エネルギー経済
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昨年11月の、菅総理による2050年脱炭素宣言以来、環境ビジネスへの関心はにわかに高まってきています。私は、ビジネスの現場からは若干距離がありますものの、それでも、環境ビジネス、特に脱炭素関連のものをテーマに、いろいろな勉強会などに参加しています。今回は、2月にあった会合のうちの1つを紹介します。
それは、私が座長を務める「CSV経営サロン」です。ここは、三菱地所が大家さんになっているビルが多い大手町、丸の内、有楽町界隈の企業が会員となって個社を超えた取り組みを進める場、3×3ラボ・フューチャーにおいて、年に数回行われる会員企業を主な対象にした勉強会です。題材は、このラボの事務局と相談し、その都度、会員企業の関心が強いテーマを取り上げますが、20年度第3回目、2月2日に開かれた会合は、グリーンボンド(使途を環境目的に限定した社債)を議論しました。100社以上の方々が視聴参加してくださいました。
お呼びした企業は、資金供給側の取りまとめ側の三菱UFJ銀行、資金を使う側は、太陽光発電電力の小売り企業Looop社でした。スタートアップ企業を大きくしたような同社は、このグリーンボンドの発行により20年4月に30億円の事業資金を獲得しました。この資金は同社所有パネルによる電力小売り販売(PPA事業)の事業拡大への大きな弾みを得ました。会合では発行に至るご苦労を聞きましたが、私が特に印象に残ったのは、資金があれば商売にできるタイプのビジネスチャンスは一杯あるけれども、そこに資金を付けて良いのかは、金融機関が担う「目利き」機能が大事だ、ということでした。私は、昔、公害防止設備を付けなければならない会社への政策金融を担当したことがありますが、そうした機械的な判断でなく、担保以外についての判断が求められるとは金融冥利に尽きるな、とも思いました。ちなみに、ホンダの低NOx自動車エンジン(CVCCエンジン)の量産化には、1975年代半ばの当時の商業銀行はどこも融資ができず、日本開発銀行(現・政策投資銀行)が目利きができて融資した案件です。お金はある、商売のタネもある。足りないのは目利き機能で、その育成が鍵だな、と改めて思ったのです。

2021年1月22日 電気工事士の資格を取りました

国内・地方エネルギーエコハウス
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この折々のニュースでもご紹介したように、拙羽根木エコハウスでは、3.8kWhの容量の蓄電池を導入し、冷蔵庫など災害時に活躍して欲しい家電に重点的に電力供給をする独立した閉鎖回路を設けました。結構複雑な回路になりましたが、我が家に固有のものなので、直したりするのに一々近所の電気屋さんに説明してお世話になるのも大変そうです。共同研究者としてこの回路を設計した田路先生は、仙台の在住ですから、たびたび来ていただくわけにはいきません。そこで、なるべくなら自主メンテナンスができるようにと、蓄電池回路の設計段階から一念発起して、電気工事士の資格を取ることにしていました。第二種という、家庭の低圧回路を付けたり外したりできる資格です。
image 資格試験は、筆記と実技の2段階に分かれていて、今年はコロナのせいで、それぞれ1回ずつしか実施されませんでした。申し込んでいた1回目の筆記試験が中止になったのですが、その準備から起算すると、足掛け2年の挑戦過程でした。まずは法規制や回路の計算などを勉強して、筆記試験を受け、それに通った後に、さらに、複線図と言う回路図の書き方を学び、工具の使い方を練習して、実技試験を受けました。
特に実技試験は、手技に慣れなかったので難関でした。試験の事前練習では、最初のうちは指がつってしまったりしました。写真にあるような工具を使って、工作するのです。ちなみに写真にある黒い袋は、私が米国ネイパービル市に住んでいた時に、学生を引率して訪問した市のユーテリティ部局の下のスマートグリッドの指令室でいただいた記念グッズです。ここに工作練習に使う部品を入れていました。サマになっていますね。
実技試験では、13種類の回路があらかじめ候補問題として公開されていて、それぞれ何度か作成して事前練習をします。三枚目の写真は、結果として実際に出題されることになった回路を家で事前練習した際の作品(候補問題13番)です。本番では、工作用の回路図を自分なりに書いたうえで、完成するまでに40分の集中作業です。久しぶりに緊張し、アドレナリンが出ました。
電気機器を扱う業界では、事務職を含めて取得が奨励されることの多い資格のようです。日本の電気リテラシー向上のためには良いことだ、と思いました。自分自身も、幸い合格して良かったですが、身に着けた知識と手技を、自宅蓄電システムの維持、そして改善に活かし、引き続き、再エネ活用拡大につなげてしていきたい、と願っています。

小林光・研究顧問のレポート

2020年11月3日 秋の叙勲(伝達式は11月11日)

国内・地方

各界の功労者に対する秋の叙勲は、11月3日に発令されました。全体で4241人(外国人受章者を含む)が対象となり、私も環境保全の功労ゆえで受章者に加えていただけました。実際には、11日に、皇居で、伝達式が行われ、緊張しましたが頂戴してまいりました。写真は、モーニングコートを借りたホテルへ戻って、写真室に行くところのスナップです。
私は、精励刻苦して仕事に邁進したというわけではなく、子供の頃から環境が好きで好きでおもむくままに働いてきただけのことなので、勲章を頂戴するのは分不相応で畏れ多いのです。しかし、私の仕事は、先輩や同僚、部下、そしてさらには、交渉の相手になります立場の異なる方々、そうした人々の、いわば集合的な努力の結果を反映したものですから、同時代を過ごしたこうした方々のいわば代表として、受章させていただこうと思いました。
ところで、環境省の発表によると、環境保全分野で今回叙勲の栄を賜った方々は全国で16名に過ぎませんでした。その中には、永年、清掃の現場で廃棄物の収集処分などに携わってきた方々も含まれていましたが、自然保護に現場で取り組んだ人とか、地道に環境測定を続けた人などはたまたまでしょうが含まれていませんでした。16人は受章者の0.4%弱。なんといっても、その人数の少なさにはびっくりしました。プロフェッションとしての環境保全の地位向上を図らなければ、と気持ちを新たにしたところです。

小林光・研究顧問のレポート

2020年10月23,30日 ラジオ番組に出演しました

国内・地方エネルギー経済

日本最大の発電会社のJERAによる2050年CO2排出ゼロ宣言、そして、菅総理の10月26日の施政方針演説での同じく2050ぜロ宣言を受けて、ラジオの討論番組に2週続けて出演してきました。
石炭火力は要らないと思う。水素を実際に使って行くべきだ、温暖化対策はビジネスチャンスだ、炭素税で後押しを、といったことを述べさせていただきました。放送後でも録音が聴けるURLは、以下のとおりです。
テレビ出演よりも緊張しませんが、やはり、時計を見ながらのトークは理屈などはいいかげんになるし、舌を噛みそうになるしで、よい経験でした。
【放送分のポッドキャストURL】
ラジオNIKKEI「町田徹の経済リポートふかぼり!」10月23日放送
http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/fukabori-report/fukabori-report-201023.mp3
ラジオNIKKEI「町田徹の経済リポートふかぼり!」10月30日放送
http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/fukabori-report/fukabori-report-201030.mp3

2020年9月24日 自宅・羽根木エコハウスで売電分を自家消費に回すため蓄電池を増強し、定常運転が始まりました。

国内・地方エネルギーエコハウス

自宅のPVシステムは、卒FITを迎え、環境価値含めての売電単価が8.5円になってしまいました。
この安い値段で環境価値を売るのは到底忍びないので、太陽光電気の売電を減らして自家消費に回し、その分買電も減らそうと、蓄電池の増設を行いました。
システム図は掲載のとおりです。詳しくは、この研究顧問の部屋からワンクリックで読める拙稿「足元からエコ」の82回(専門紙の「創省蓄エネ時報」2020年10月15日号掲載)を参照いただきたいですが、前述の狙いを達成するだけでなく、中古リチウムイオン電池のリユースに道を開く、蓄電電力の供給先を災害時の生活に役立つ機器にしてレジリアンスを高める、といった別の狙いの達成も目指したことも特徴です。
もともとの売電量は400kWh弱、電池の容量も3.6kWhと、小さなプロジェクトです。果たしてうまくいくのか、長期的なデータを収集中です。なお、このプロジェクトは、東北大学名誉教授の田路和幸先生との共同実験。私は、約65万円を投じた。我が家の太陽光発電電力の価値への自己評価は極めて高いものになりましたが、経済的には、果たして、喜んでよいものやら…。


羽根木エコハウス/部分系統給電蓄電池システム
(画像をクリックすると大きな画像が表示されます)

小林光・研究顧問のレポート

2020年9月18日 自作ビオトープの恒例観察会

国内・地方まちづくり自然

好天に恵まれ、羽根木テラスBIOの庭の自然観察会が開かれました。
この自然観察会は、世田谷区が認定した「小さな森」という民有緑地を年に一回区民に公開して体感してもらい、説明する行事です。羽根木テラスBIOとは、私の自宅の隣接地にある賃貸住宅で、私と弟がオーナーになっています。
我が家の辺りも、ご多分に漏れず、代替わりに伴いどんどん建て詰まって緑が減りました。このことを残念に思い、母方の実家を相続した際に、建て替えて、思い切って広い庭を設け、東京近辺の郷土種であってチョウの食草、食樹となる植物を中心に植栽して、いわばビオトープになるように整備したのが、この庭(写真1参照)です。
たかだか90㎡位の緑ですが、当日は20人近くの方々いらっしゃって(写真2)、町の真ん中でもたくさんのチョウが観察できることを堪能していただけました。小さな空間でも、工夫をすれば自然が戻る、という事実をもっと広めていきたいと、実践的環境屋として、意欲を高めた次第です。
【羽根木テラスBIO小さな森の参考記事】
(一財)世田谷トラストまちづくりFacebook: https://www.facebook.com/tm.toramachi


写真1

小林光・研究顧問のレポート


写真2

小林光・研究顧問のレポート

2020年8月21日 御岳渓谷で植物種子採取

国内・地方自然

小池知事は、夏休みの旅行などの不要不急の理由で都外に行くことは避けるように、と要請をしました。実は、利尻・礼文へ行こうとすべて予約を整えていたのですが、残念ですが、来年へと予約変更をしました。
けれども、自然の息吹に触れない夏ではつまりません(仕事では、信州の白樺湖で研究会などがありましたので、若干は緑の中で過ごせました。)。都内ならいいのだろう、と、青梅線で御岳まで行き、遊歩道を上流下流およそ6kmくらい歩きました。
なんと去年の台風での土砂崩れや橋の流出の復旧がまだ終わっていず、遊歩道は、とぎれとぎれでした。写真のように多摩川はとてもきれいな流れでしたが、温暖化の凶暴な影響は、身近になってきているのですね。
クサギの白い花にはたくさんのアゲハチョウの仲間が遊び、川では、子供たちがラフティングで歓声を上げ、自分は日本酒の試飲をしたりして、楽しい夏の日になりました。戦果は、河畔に生えていたヤブカンゾウの種子が取れたことです。
さっそく帰宅後に、羽根木エコハウスに隣接の羽根木BIOのビオトープに種を植えました。来年に、だいだい色の花が見えたらな、と思っています。


多摩川本流御岳付近の流れ

小林光・研究顧問のレポート

2020年7月28日,8月26日 卒FIT対応蓄電増強工事

国内・地方エネルギーエコハウス

拙羽根木エコハウスは、2000年3月竣工以来、太陽光発電をして余剰の電力はグリッドに逆潮しています。
古参のPVオーナーなので、東日本大震災を契機に成立したFIT制度の下で、その高額買い上げ保証の下にもう既に10年いて、高額買い上げ期間を満了してしまいました。そうすると、買い上げ価格は、8.5円の、昔で言えばジャンク電力の値段になり、かつ、これのゼロカーボンとしての環境価値も、売り渡すことになることになってしまいました。
環境価値込みでこの値段は冗談でしょ、というのが小林の感想です。そうなると環境価値は自分で使おう、つまり、自家消費分を増やして売電分を減らし、そして、ついでに買電分を減らすしかないじゃないか、と思い至りました。

そこで、かねて仲良くさせていただいている田路先生(東北大学名誉教授)のご指導を得て、田路先生との共同実証実験として、蓄電池を増強する工事をしました。
この蓄電池は中古のSONY製リチウムイオン電池の3.6 kWh容量のものです。田路先生が念入りな制御システムを付加し、SOC 50%以下では太陽光発電からの充電のみをし、放電下限はSOC 7%となっていて、その間の電力1.5 kWhほどを使うものです。
拙宅の売電実績は年間350 kWh程度と少なく、総量的にはまあそれに等しい蓄電レベルです。
蓄電した電力は、ここがキモですが、グリッドには決していかず、閉鎖回路にのみ供給することになっています。供給先は、年間300 kWhくらい使う電気冷蔵庫、そして、家の地下室にある排水ピットの排水ポンプ、ある一室に置かれたTVや照明器具などです。言い換えれば、昼間に蓄電した電力を、冷蔵庫を中心に一日を均して使う発想です。
そして供給先は災害時でも動いて欲しい物ばかりにしました。もちろん、平時でも、天気が悪い日では1.5 kWhの蓄電は難しいかもしれません、その時には、このシステムには、系統からの電力が瞬時のリレーでストレートに入るようになっています。また、災害時で系統がないときは、この蓄電池のSOCがなくなるまで電力を吐き出していただく仕組みにもなっています。翌日に災害が予想される場合は手動で系統から満充電にもできます。

そういうわけで、結構複雑な仕組みになり、組み上げるのに2回の工事を要し、写真のように制御機器が一杯つくことになりました。今は実験中で、数値が十分ではないのですが、おそらく、放電下限や充電上限を変えた方が良いのではないかとの判断で、9月下旬にももう一回補足工事をする予定です。まとまった数値が出たら、公表するようにしますので、しばしお待ちください。
もしうまくいくようなら、災害対策そして中古リチウムイオン電池の活用策としての有効性が示せると、期待してします。


3階OM機械室にぎっしりと置かれた余剰電力蓄電、独立回路への出力装置

小林光・研究顧問のレポート

2020年7月18日 せたがやクリーン作戦

国内・地方まちづくり資源・ごみ

7月18日には、小雨の中、自宅脇を通る街路の延長800mほどを近所の方々とごみ拾い活動をしました。
これは世田谷区音頭を取って行う、せたがやクリーン作戦というもので、街頭のごみを区民主体で片付けようという運動です。元来は、オリンピックで外国のお客様を迎えるのできれいにしておこう、という趣旨でした。オリンピックは延期されましたが、折角の良いことなのでやりましょう、と、区内各地で日取りを選んで行われているようです。
私たちは、この街路(旧河道で、狭いので、ごみが捨てられやすい)に接するお宅にポスティングし、参加を呼び掛けましたが、生憎の雨。参加者は、写真と撮った方をいれて総勢8人でした。
区からは、SDGsの入ったビブスやごみ取り用のトングが貸与され、使い捨て手袋、分別用のごみ袋が支給されました。戦利品は写真のとおりです。
街路に張り出した雑草などを除くと、もっとも多い のがタバコの吸い殻、次いで、相変わらずですが、コンビニレジ袋、コンビニのコーヒーカップ、PETボトルなどでした。
レジ袋有料化は始まったばかりなので、また秋にでも片付けに出て、散乱ごみ内容に変化があるか、見てみよう、と思います。


ゴミ拾いにいざ出発

小林光・研究顧問のレポート

世田谷では馬術競技があるので、
馬をあしらった特別製のクリーン作戦ごみ回収袋

小林光・研究顧問のレポート


ゴミ拾い中

小林光・研究顧問のレポート


ゴミ拾いの戦果

小林光・研究顧問のレポート

2020年6月19日 REglobal第1回勉強会での講演

国内・地方エネルギー経済公害
小林光・研究顧問のレポート

6月19日に、社会連携講座「再生可能燃料のグローバルネットワーク(REglobal)」の会員企業の方々がこぞって参加する勉強会の講師を務めました。
栄えある第1回ですので、過去を遡り、環境対策技術が社会実装に至るモーターが何だったのかを振り返り、それに照らして、地球温暖化対策としての再エネ技術とりわけ水素の社会実装の作戦を考察するという、どちらかというと大局的なお話をしました。
取り上げた過去のケースは、硫黄酸化物対策、窒素酸化物対策、オゾン層保護・フロン代替の主に3つのケースです。写真は、2時間の勉強会が終わった後のスタジオ(となった先端研3号館南棟4階)の様子です。
今回の勉強会は、Webiner形式で230人もの方々が聞いてくださいました。こちらから見えます画面には、何人かのディスカッサント役の方々のお顔が見えるので、インタラクティブにお話ができました。
勉強会ではさらに掘り下げたテーマを、様々な公私の方が考察して下さることになっていて、この先が楽しみです。

2020年5月27日~28日 集中講義「地球環境経済政策」の実施

国内・地方経済
小林光・研究顧問のレポート

5月27日、28日の合計5コマ、8時間45分にわたって集中講義をしました。テーマは「地球環境経済政策」。15人の学生、3年生から博士課程までがPC画面の向こうで聞いてくれました。
最初は、ラジオ出演よりもリアリティがないなあ、と思いましたが、学生さんが質問を寄せたり、コメントしてくれたりしたので、双方向性を感じることができ、冗談いったり裏話を披露したりで和やかにできました。技術進歩を実感しました。
2011年以来の教員生活ですが、おそらくこの講義が、自分一人で1科目の講師をする最後の機会だったんではないかと思います。というのも、東大総合文化研究科の客員教授も今年度一杯だからです。冬学期に、エコハウスのことで駒場で、そして環境都市計画のことで本郷で、慶應藤沢でも国際環境ルールづくりに関し、それぞれ講義はするのでしょうが、それはオムニバス講義の講師の一員という役割です。
今回の集中講義、公私ともに感慨深かったです。ついでですが、履修者のアサインメント・レポートは、コロナが地球環境に与える好悪の影響です。学生さんの見立ては果たしてどうでしょう。

2020年3月16日~17日 大阪ガス・川崎重工業の水素関連の取り組み見学(大阪・神戸)

国内・地方エネルギー
小林光・研究顧問のレポート

2020年3月16日、17日には、大阪、神戸で、大阪ガスや川崎重工業の水素関連の取り組みを見学しにいきました。コロナ禍前の最後の滑り込みセーフの活動になりました。これは、再生エネルギーのグローバルネットのプロジェクトで、杉山先生とも一緒です。大阪市の環境局の方々も参加しました。
写真は、近い将来、豪州からの液化水素を荷揚げすることになる神戸の空港島にある、液化水素運搬船用の岸壁です。球形の足場があるタンクは二重殻で真空断熱した液化水素タンクです。液化水素の荷揚げ施設は世界中でここだけ。水素活用で関西が先陣を切ってほしいものです。

2020年1月 欧州エナジートランジション会議(ボルドー)

国際・海外エネルギー
小林光・研究顧問のレポート

2020年1月末の1週間、東大総合文化研究科に置かれている産学の研究会「未来社会創造フォーラム」主催で欧州に、再エネ活用の最新の動きを見学に行きました。
ドイツでは、褐炭産地の、次の商品として、風力の電力で水素を製造する取り組みなどを見ました。変動著しい風力からの電力をいかに効率よく水素に変えるか、研究がなされていました。
写真1は、昔の炭鉱の採掘物の巻き上げ機と最新鋭の水素タンクを同時に写したものです。エネルギーの転換が実感できる風景でした。

ドイツの次には、フランス、ボルドーを訪れ、ボルドー大学の環境の先生方とディスカッションしたり、欧州エナジートランジション会議を傍聴したりしました。
写真2は、プレナリーの会場の様子です。再エネを使うかどうかではなく、どうしたらもっと多く使えるかの実践的な発表が一杯ありました。

小林光・研究顧問のレポート

会場の中には、もちろん展示スペースもあり、若い人と企業との、環境就職などの出会いの場もありましたし、写真3のように水素を使う具体的な製品の展示もありました。このエンジ社提供の水素燃料電池自転車は、このあと試乗させていただきましたが、安定していて運転しやすかったです。

小林光・研究顧問のレポート