小林光コラム-小林光のエコ買いな?

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第7回 2012年10月26日 マンションの太陽光発電、制度の壁を逆手にビジネス
―集合住宅をエコに変える北九州・芝浦グループの挑戦

 フィードイン・タリフ制度(FIT、再生可能エネルギーで発電した電気を一定の価格で電力会社に買い取ることを義務づける制度)のお蔭で、企業や個人が、太陽光発電パネルを設置しても、短期間に元が取れるようになり、是非、パネルを付けたい、と思う人が増えてきた。中でも主婦や主夫など、電気を使い、その料金支払いをする立場の人には切実にそう思う人が多い。しかし集合住宅(マンション)の住人は、その夢を叶えるのは難しい(住宅向け太陽光の買い取りは事実上戸建てが対象になっており、制度の壁がある)。しかし難しいことは、ニーズでもありビジネスチャンスでもある。

 こうした夢が叶えられるマンションが九州には多数ある。全入居住戸それぞれに、能力約1.5kWの太陽光発電パネルを備えた分譲マンションや賃貸マンションである。この事業を展開している芝浦特機などからなる、芝浦グループを率いるホールディングス会社は、北九州小倉南区に本社を置き、これまで全戸太陽光発電パネル付きの分譲・賃貸マンションを18棟手がけた(=写真)。

図


芝浦グループは、マンション住民が使いやすい大きさのパネルやパワーコンディショナー(インバーターや接続などに係わる制御装置)などの規模を制度や経験に照らし、1.5kWと見切った。そのうえで開発する底地に建て得る集合住宅の屋根の広さを、出力1.5kW分のパネル面積で割って出される数の住戸だけを、その屋根の下に収める、という屋根オリエンティッドな設計にした。各住戸は、必ず自分専用の太陽光パネルを持てるのである。さらに戸建ての場合と同様に、マンション内の各戸毎に太陽光発電の余剰電力は系統に連携され、売却される。戸別に買い上げ契約が結ばれているからだ。マンション自体の断熱・省エネなどに力を入れているのは、言うまでもない。

こうしたハードに加え、ソフト面の工夫がある。

例えば電気料金は外で稼いでくる旦那の銀行口座から引き落とされるが、節電し、太陽光発電による余剰電力で売り上げたお金の振込み先は、在宅時間の多い奥さんの口座にすることができる。このようにすると各家庭は節電に工夫を凝らし、月間光熱費がゼロといった例もたくさん出てくることになる(売却費単価の方が購入単価より高いので、実際には、自給率が100%でなくとも、光熱費はゼロになり得る)。同ホールディングのホームページを見ると、各マンション棟や各家庭が、少ない電力消費量、電気料金でマンションライフを楽しんでいる姿がリアルタイムで紹介されている。

それでは、このマンションの分譲価格や賃貸料は、太陽光パネルやパワーコンディショナーの分だけ(おそらくは百数十万円は)高いのだろうか。

ここにも実は新しい発想があって、高くはないのである。このマンションは、光熱費が得になる物件と言うことで、人気であり、賃貸であれば、借り手が替わるたびに不動産屋さんは、賃料アップができるという。分譲マンションもほぼ「売り出し・即完売」の状態になる。空き家を抱えるロスがなく、建築主である芝浦グループでは、その資本費用を見ると、太陽光発電パネルがあるゆえに、かえって安く済むことになる。同ホールディング最高経営責任者(CEO)の新地哲己さんは「太陽光発電パネルは、商売の重荷になっていない、人気のせいで十分な儲けが出るため、パネルはタダで差し上げてもいいくらいだ」と説明する。いささか誇張としても、売り出し主も住まい手も喜ぶ、互いに報われる仕組みになっているのは事実である。

横文字で言えば、オーナーシップのある住み手、あるいは太陽光発電電力のプロシューマ―、という立場に立つことによって、消費者は単なる需要者ではなくなり、より良い社会の作り手になれるのである。

銀行の融資態度が前向きに、品質管理に学校設立

芝浦グループは、住み手の希望に応えることを通じ、迅速に投下資本を回収できるメリットを産み出したが、他のステークホルダー(利害関係者)とも、建設的・生産的な関係へ変えることに成功した。

新地さんは、銀行が貸付資金の安全性を“過度”に優先していることが、貸付先の事業展開を困難にし、採算性を悪化させている、とかねてより批判している。例えば、実際に太陽光発電パネルを設置した建物ができるまで銀行貸し付けが実行されないと、建設期間に高利のツナギ融資が必要になる。下請け企業の資金繰りも厳しくなり、良い作業を継続的に期待できる関係が維持しにくくなる。芝浦グループは現状では、満室の人気賃貸マンションという優良資産を積極的に売却することなどを通じて自己資金を増やし、銀行に頼らずとも機動的な事業展開ができる体制を作っていった。一方、銀行は、芝浦グループの事業経営を評価し、支店長決裁の範囲での無担保融資などの対応を取る仕組みを整えてきた。

これらの体制整備が、メガソーラー発電事業への同社の参入で大いに力を発揮した。加えて同社は今度も新しい事業モデルを作り出したのである。メガソーラーを超える大規模発電サイトを造成した上で、メガワット規模に小分けして、分譲する仕組みである。この事業では、銀行の迅速・積極的な貸し付けが活用されたうえ、太陽光発電パネルのメーカーとの付き合いもフルに活かされた。同社が力を入れたのは、パネルの据え付けに関する施工技術の品質管理である。パネルの据え付け技術を修める学校を設立し、同社発注の太陽光パネル据え付け工事は「この学校の卒業生に限る」という形で施工の品質確保を図っている。

またメガソーラー事業に初めて進出し、出資する事業主への配慮にも工夫が見られる。具体的には、発電パネルのメンテナンスは、すべて芝浦グループが請け負い、リスクをなくす仕組みを設けている。太陽光発電マンションでの技術蓄積が活かされたと言えよう。

既築でも、住民主導による環境事業に可能性

芝浦グループの例を見ると、全戸太陽光発電のエコマンションにせよ、メガソーラー発電事業にせよ、その事業のステークホルダーがそれぞれに持ち寄れる最良部分をうまく組み合わせることにより、需要者が喜んで参画でき、皆の元気が発揮され得るような仕組みを設けていることが分かる。こうした仕組みが事業成功の決め手となっていることが理解できる。

新築以上に対策が難しく、しかし、成果も大きいのが既築の集合住宅である。

先に見たような、需要側が喜んで力を発揮できるようにする条件整備があれば、既築マンションでの対策も進め得るのではないだろうか。

このような発想に立ち、私の研究室の大学院生が行った修士研究を紹介したい。

既築のマンション(独立した棟のみのもの、に加えて、複数棟がある団地型)を取り上げ、その自治組織である管理組合がどのような属性を持つと、エコ改修に踏み切る可能性が高くなるかを調べたものである。

研究の結果(小島泰志氏が2012年の土木学会で発表した「既存分譲住宅における省エネ改修に向けた改修阻害要因の解明」による。土木学会雑誌所載)では、改修の意向は、一般に想像されるように、築後の年数が増えるにつれて高くなることが示されているが、マンション改修についてどのような情報を入手しているかということも影響を与えていることが明らかになった。建物の管理を委託している管理会社経由でマンション管理や改修に係る情報を得ている管理組合は、改修対策のバラエティに関して情報が少ない。他方、管理組合ネットに自ら進んで参加したり、外部セミナーなどに出席したりしている管理組合では、幅広い種類の改修対策へ関心を寄せる傾向が見られ、実際にも改修を行っている頻度も高かった(図1、2参照)。

図


需要者は、サプライヤーの与えるものをただ受け入れるのでは元気が出ず、むしろ、需要者が進んで勉強し、要望を発信し、需要者とサプライヤーが密に交流する事業モデルこそ、食いつきの良い需要を生む。手応えのある新しい事業価値が創出されるということである。北九州は、意欲的に、こうした「共進化」型の環境ビジネスに取り組んでいる。

(2012年10月26日)