小林光コラム-小林光のエコ買いな?

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第8回 2012年11月21日 消費者パワーを体感した「節電の夏」

 東京電力管内では、2012年夏(7-9月期)の期間の電力販売は、総計709億キロワット時(kWh)であり、一般家庭の電灯契約に限ると、232億kWhであった。震災前の2010年の同時期に比べて、それぞれ15 %前後も減った。筆者の自宅では2年連続で、それ以上の節電に成功した。その要因はなにか?残暑が厳しかった12年夏について我が家の節電の総括を、木枯らしで忘れないうちにまとめておこう。

乾いた雑巾もまだ絞れた!

 実は自宅は、東京・世田谷区の「羽根木エコハウス」として結構知られている。他人様に環境対策を説く立場である以上「精一杯のことをしてみる」というわけで、2000年に竣工させた。設計時の1999年に市販されていた家庭用環境対策はほぼ導入している。例えば、省エネは壁や開口部の高断熱、壁面や屋上の緑化、各種の節電型の家電を導入し、自然エネルギー利用では太陽光発電はもちろん、太陽熱給湯、太陽熱床暖房、バイオマスの薪を使うストーブや風力発電などを活用している。残念ながら、エコウィルや燃料電池のような家庭用コジェネ、エコキュートのような高性能のヒートポンプ給湯器は未だ販売されておらず、導入していない。

 新築以来、様々な工夫を積み重ね、節電などに努めてきた。電力消費量で見ると、建て替え前の二世帯合計の年間1万1000kWhに比べ、建て替えた初年には、6100kWhへと47%も少なくなった。

 その後、躯体や太陽光発電設備そのものなどは、改良できないので、各機器の使い方などに習熟するようにした。2010年度には、3800kWhと、建て替え直後に比べて38%削減できた(注:自宅は新築後、太陽光発電をしている。このため電力消費量の数字は、建て替え後については東電から購入した電力量から東電へ売却した電力量を差し引いた純買電量である。以下同じ)

 そこへ襲ったのが、11年3月の東日本大震災とその後の計画停電問題だ。節電に協力しないと「電力不足でいつ停電になるか分からない」という不安から更なる節電に励んだ。そのテクニックは後述するとして成果を見ると、11年度通年ベースでは、3074kWhと前年度比で20%減らすことができた(そのうち6%ほどは、11年夏が猛暑でなかったことに起因すると思われる)。12年度は11月までの11年度同期比で11%の削減になっている。

 この2年間の7-9月の3カ月の節電期間だけに限ってみると、10年の電力消費量の1001kWhが11年には751kWhとなり、さらに12年は、573kWhとなっている。2年続けて約25%ずつの節電の「深掘」に成功したことになった。
エコハウスとして建て、10年間その改善・習熟を図ってきたのだから、節電余地などないだろうと思ったが、やってみると異なった。日本のエネルギー事情は「乾いた雑巾」に喩えられ、削減の余地はないとされるが、自宅家についてもそう思っていたので、正直、驚いた。

 総括的に言えば、建て替え直後に比べ、グロスの消費電力(自家発した電気の自家消費分を純買電量に加えたもの)は、48%減り、電力料金の支払いは、53%少なくなった。買電量とCO2量は比例するので共に54%減った。買電量が大きく下がるのは、自家発電は使えるだけ使うので、消費電力量の減少は、専ら買電量の削減に結びつくからだ。さらに省エネのお蔭で、太陽光による電力自給率は、当初の16%から32%へと倍増し、災害時の対応能力を高められた(図)。

図


「創エネは独立系太陽電池、省エネはLEDと直流モーター扇風機」が主役

どのような取組みで節電が果たせたのだろうか?エコハウスとして建てた上、長年、使い方を向上させてきたので、さすがに単純な心がけ省エネや我慢の省エネの余地は乏しい。対策として取ったことは、新たな機器の導入である。

11年は余震がある頃であったので、切迫感も生々しく、単なる節電だけでなく、災害で系統電力が長く停電した場合の備えも強く意識した。思い切って独立した太陽電池を導入した。太陽電池と言ってもほんの小さいものである。一つは、能力140W(実効的には90W程度の発電能力)のもので、これは蓄電池に電力を蓄えるためだ。もう一つは、70W程度で、これは太陽熱暖房・給湯設備のファンなどを回す電力用に使う。

前者は、直流の電力を貯めたのでは節電にはならない。そこで、インバーターを入れ、50ヘルツの交流に直し、夜間の常夜灯や扇風機、食堂の液晶テレビの視聴など、それまでは電力会社の電気を使っていた機器に用いるようにした。蓄電池は、800Wh程度の能力だが、使ってみると、なかなか使い手があった。おそらく、蓄電した電気を1日400Wh活用し、30日間で10kWh程度の節電には寄与したであろう。またファンの動力源は、それまで電力会社から購入していたので、置き換えは直ちに節電につながった。1カ月、12~13kWhの節電になった。

省エネ側では11年、12年と、照明のLED化に努めた。小さなバルブで、調光スイッチのある場所などでは、白熱球しか選択肢がなかったが、最近になってそうした所にも適合する製品が出てきた。10カ所程度で、追加的なLED化をすることができた。これで月間30kWh程度の節電になったと思われる。

さらに12年はエアコンに併用して使っていた扇風機を従来の交流モーター製から、ブラッシレス直流モーター製へ一挙に3台交換した(写真)。扇風機の消費電力は大きくはないが、直流モーターの省エネ率は70%以上と大きく、計算上は、月に18kWh程度の節電になったと見込まれる。直流モーター扇風機は、モーターに組み込まれている電磁石の極性を変える時にだけ電気を流して回転子を回す仕組みなので、常に通電している交流モーターよりも節電でき、熱も余り出さず、音も静かである。写真のとおり、見た目はほぼ変わらないが、小さなインバーターのプラグがあり、そこからの給電線が交流の場合よりも細い、といったことが違いと言えば違いである。

図


機器や設備によるこうした節電は、もちろん、我が家にとっては出費である。しかし、環境負荷が大きく減った上、月々の電力料金支払額の軽減が1500円程度になり、出費もそのうち取り戻せるであろう。大事なことは、電力消費が少なくなることは、それだけ災害に強くなったことを意味し、心強さが違う。そして我が家の機器購入は、電力会社の限界費用の高いピーク対応支出を抑えるとともに、マクロ経済への新たな需要となって、良い影響を与えたはずである。

こうして考えると機器整備による節電は、一石五鳥(CO2削減、節電、災害への対応力向上、資本の無駄遣い防止、需要創出)の効果を生んだことになる。

消費者の行動が変わることの大きな影響を自ら体験的に理解できた夏であった、と総括したい。

(2012年11月21日)