小林光コラム-小林光のエコ買いな?

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第18回 2013年9月25日 新エネの中心地に変貌するハワイ

 ハワイ・ホノルルのコンベンション・センターで9月9日から3日間にわたって開かれた「アジア太平洋・クリーンエネルギー・サミット・エクスポ」に出席してきた。既に15回目を数える歴史のある国際会議であるが、年々、参加者が増え、中身も濃くなっていると聞く。ハワイは、アバークロンビー知事の下、大変に野心的な環境・エネルギー政策を展開している。そのため、この会議には、ハワイから見ると地球の裏側になるヨーロッパからさえも多くの参加者が集まって、賑わいを見せていた。
図  ハワイの野心的な政策とは、2050年には、化石エネルギー消費量を予測値に比べて、70%削減するというもので、その70%のうち、30%相当分は省エネで達成し、残りの40%相当分は再生可能エネルギーの利用拡大で置き換える、という目標になっている。化石燃料への依存量は、2005年実績比では、その60%にまで減る、ということになる。この目標は、2004年制定の州法に明記されて、各種の政策や事業がその実現を目指して進められている。CO2の80%削減目標に比べれば弱いが、法定の目標としてこれだけの数字に取り組んでいる点は、率直に言って尊敬に値しよう。

 この結果、既に、ハワイの取り組み成果は、全米一位をうかがうものとなっている。例えば、2010年頃までの実績で、太陽光発電パネルの州民一人当たり設置済み容量は、ネヴァタ州の約39Wに次いで2位の33W、環境関連産業の雇用増加率(2003年から2010年)では、アラスカ、ノースダコタに次ぐ全米3位の6.5%増などとなっている。

 この順位をさらに押し上げるべく、ハワイ州では、様々な政策や事業が行われている。

 スマートメーターの設置促進、固定価格買取制度の導入、自然エネルギー利用設備への補助金、電気自動車への給電設備の普及などである。特に、商業ベースで進められる計画も多く、2012年付けのハワイ州政府の資料によれば、こうした計画が75もある。内容から見ると、バイオマス、風力、太陽光・熱と広範囲をカバーしている(ちなみに、冒頭に述べた新エネサミットには、海洋テクノロジーの国際シンポジウムも併催、海洋温度差発電の導入が真剣に論じられていた)。例えば、昔の砂糖製造工場のバガス(サトウキビの絞りかす)ボイラーを改造して木質ボイラーとして利用する、あるいは豊富な地熱の活用に関するものなど、ハワイならではのものも多く含まれている。

化石燃料高でガソリン価格も電気料金も全米一

 ハワイがこんなにも自然エネルギーに熱心なのには理由がある。それは一つには、化石燃料の輸入代金が、昨今の石油価格値上がりなどの影響もあって、年間50億ドルにも達していることがある(日本の40分の1に相当)。ガソリン価格も、電力料金も全米一高額と聞いた。例えば、家庭用の電力価格は、30数セント/kWhであると言う(ただし、基本料金を含めた平均か、追加的な消費量当たりかは不承知。実感としての価格であろう。ちなみに、我が家の実感の価格は、30円/kWh)。反面、自然エネルギーが極めて豊富にあることも、自然エネルギーの活用に熱心になる大きな理由である。
 ハワイはそうした背景から全米のトップランナーを目指している。今回の新エネサミットの冒頭挨拶やキーノート・スピーチには、きら星のような人物の登壇が目立ったが、いずれも、ハワイの努力を称賛し、さらなる発展、挑戦を強く奨励する内容であった。ブラックオニキス、テトリスなどのコンピュータゲームの開発・販売の草分けとして有名なへンク・ロジャース氏は、ハワイでは自然エネルギー100%の生活や経済を築くべきであり、築けると訴えた。またビデオでメッセージを寄せた米国・エネルギー省のアネスト・モニス長官は、ハワイの取り組みを全米一のものと絶賛、同様の取り組みが全米で展開されるよう尽力する旨を述べた。特に印象的であったことは、エネルギー省が、地球温暖化対策の必要性を強く指摘し、省エネの徹底はもちろん、新エネへの乗り換えをこの観点から厳しく進めるべき、とした点である。環境保護庁長官の演説として聞いても何ら違和感のない内容で、ここ数年での米国の大きな変化を印象付けられた。

火力の最少化を目指すスマートグリッド

 このサミットと称する新エネルギーの会議では私なりに注目した事項が二つあった。

 一つは、実規模のスマートグリッドの開始であり、その二つ目は、明2014年度の開始の予定の、新たな仕組みを持つ家庭向け太陽光パネルなどの普及促進策である。まずは、スマートグリッドを見てみよう。

 このグリッドは、この秋の運転開始を目指して、マウイ島で準備が進められてきたものである。日米の合意に基づき開始されたもので、日本側では、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の傘の下、日立製作所が中心となり、現地側では、ハワイ州政府やマウイ郡、ハワイ大学、マウイ電力などが参加している。

 世界中に数多くのスマートグリッド事業がある中での、ハワイの事業の特色は、自然エネルギーが最初から豊富にあり、目標が火力の最少運用に置かれている点である。マウイ島の最少電力需要量は8万~9万kWであるところ、既存風力が3万kWあり、近々9万kWの追加が予定されている。また、家庭向けの太陽光パネルも伸びている。このように豊富な自然エネルギーを極力有効に使うため、火力を落とすわけにはいかないものの、既存の火力発電所をいかに絞り込むかに力を注いでいる。

 この事業では、需要制御、大容量蓄電池や電気自動車、電力による各家庭の湯沸しと貯湯といった仕組みが用いられる(このほかに、オアフ島への連携線整備も議論されている)。メニューとしては驚くには値しないかもしれないが、マウイ島スマートグリッド事業の第二の特色は、それぞれに実規模で準備が進んでいることだ。このグリッドで結ばれる需要側は、数百世帯に及ぶ家庭、リゾートホテルやショッピングセンターであり、そのうち百世帯以上が、需要制御の対象になることを任意に承諾している。つまり、これらの家庭は、自然エネルギーの供給状況に応じて、自宅のエネルギー需要を外部から増やしたり減らしたりの制御を受けることが承諾している。こうした取り組みにより、どのようなエネルギー需要制御が容易なのか、難しいのか、などを把握するのが狙いだ。いよいよこの秋の運開に向け、スマートメーターの取り付けなどが着々と行われている由であった。頼もしい限りであり、その実績を早く聞きたいものである。

中低所得者も太陽光導入――官民ファンドがサポート

 今回のハワイの会議での報告で、論者の関心を引いたもう一つのことに、太陽光パネルなどを一層設置しやすくする経済的な仕組みの準備を進めていることがあった。

 GEMSと呼ばれており、グリーンエネルギー市場向け商品創生(セキュリタイゼーション)あるいは商品化といった呼称の略である。ハワイの場合の、その要点は、2013年ハワイ州法案1087号という法律(13年5月に可決され、6月に州知事が署名し制定)に盛られており、一定の公共関与(ファンド生成とその支出)の下、各家庭に太陽光パネルを設置し、その設置費用を、各家庭が支払う電力料金と一緒に電力会社が代行して徴収することを授権・委託し、電力会社を経由して、ファンドは投下資金を回収する仕組みである。日本で考えると大胆な仕組みであるが、なんでも市場化することが得意な米国では、似たような仕組みの先例はある。ハワイの場合は、さらに、このファンドが、公共の関与で、破綻回避されていることから格付けが優良になり、低コストでの資金調達が可能になっている。

 このような形で、資金力に乏しい中、低所得の家庭でも、今までの電力料金支払い額に比べて若干安めの料金支払いになった上で、将来に繰り延べた分割払いで、電力パネルを直ちに購入できることになる。すなわち、元手を不要にすることで、太陽光パネルの需要を増やす、というアイデアである。この仕組みの導入の根拠になった2012年12月の州民意向調査では、低金利のローンができるなら太陽光パネルを導入したいとする者が回答者の70%を占めていたとされ、実際の効果も期待される。ハワイ州政府は、ハワイの発明品であり、他州も導入することが期待できるという。

 この仕組みの細目ルールの整備が現在進められており、実施は2014年からという。太陽光パネルの大きな需要が現実化し、この制度が、太陽光パネル以外の新エネ機器あるいは省エネ機器をカバーするものに育っていって欲しいと期待する。

 化石エネルギー弱者のハワイ州では、真剣な政策努力が払われている。その努力は、供給側というより、需要側への関与に関する新たなアイデアという特色を持っていた。同じエネルギー弱者であるはずの日本の現状と比較すると、彼我の差に、やや不安を抱いた。

(2013年9月25日)